山の鳥は繁殖に入り、托卵繁殖のカッコウ類の鳴き声と、第二クラッチに入ったキビタキ、オオルリ、クロツグミのさえずりが時々聞こえる。姿を見かけることもほとんどなくなって、この時期のフィールドワークはもっぱら植物、キノコ・粘菌、昆虫にシフトする。
そんななか、鳥がいた。それも超渋い魅力を持った鳥。ひょっこり近くの倒木に出てきた。ホオジロ科のクロジ。クロジとの直近の出会いは、真冬の里山林縁。大雪の降ったあとの出会いだった。クロジは漂鳥と呼ばれるカテゴリの野鳥で、山と里を季節ごとに垂直移動して暮らしている。繁殖期は高い山で過ごす。「ホーィ・チョイチョイ」と独特のさえずりで存在がわかる。わずかな時間、お立ち台に留まって、すぐに森の中に姿を消した。高い樹林の中からはマミジロと思われるさえずりが聞こえたが、姿を見ることはなかった。
クロジの近辺で、いくつかの植物にレンズを向けた。
サンヨウブシはまだ小さな蕾。平地の田んぼから避暑にあがってきたアキアカネがあちこちにいた。
ノリウツギの花は虫たちに大人気である。ツマグロヒョウモン、イカリモンガ、ハナカミキリspなどをたくさん見かけた。
そして本日の植物のハイライトがこれ。初めて観察する種である。ラン科のオニノヤガラ。ナラタケ属への菌従属栄養植物で自身は光合成を行わない。腰の高さほどのひょろっとした植物は、なるほど、鬼が放った矢が地面に突き刺さっているように見えないこともない。
小さな沢に沿って開花していたのはモミジカラスウリ。
林道沿いにこの花が群生している。シカの不嗜好植物で選択的に残っている。ガガイモの仲間のイケマ。アサギマダラの幼虫の食草であり、シカが食べ残し、アサギマダラの繁殖に寄与しているともいえる。
そのアサギマダラ、北に進んだ林道沿いのヒヨドリバナに、たくさんの個体が吸蜜に集まっていた。
この日の朝は、今シーズン初の、そしておそらく最後の、ゼフィルスの撮影に恵まれた。コバルトブルーの煌めきが美しいジョウザンミドリシジミである。
2023.7.12 D7500+VR300mm, 90mmMACRO