暗いニュースばかりで嫌になるのは、報道を見ている側だけでなく、送り出す側もそうだろう。何か明るいニュースはないか、ハッピーな出来事はないか、みんなが明るさに飢えているような気がする。
そんなとき、豊岡市の六方田んぼでコウノトリのヒナが孵った。2002年にハチゴロウが忽然と舞い降りたのとは違って、想定内の出来事であったにせよ、昨年この田んぼから放鳥されたペアが自分たちでヒナを孵したことに、野生復帰プロジェクトのワンステップアップを感じるものである。
報道などで巣塔の様子やコウノトリの姿は嫌というほど流れているから、私からは今回のドラマのバックヤードを写真で紹介する。円山川右岸堤防から北東向きにレンズを向けている。分かりにくいので2つの矢印をつけた。左が報道陣が共同でチャーターした高さ40m級のクレーン、右がコウノトリの郷公園専用の高さ20m級のクレーン。2本のクレーンから100m先の二等辺三角形の頂点の位置に、高さ12mのコウノトリ人工巣塔が立っている。
写真の左端には円山川本流が写っており、堤防の先の方で土色の一画が台風23号で決壊したあたりだ。堤防の東側は但馬地方最大級の水田地帯六方田んぼが広がっている。ちょうど田植えの季節である。そんな環境の中でコウノトリの新しい命が生まれた。
この写真は4月15日夕方。郷公園研究グループが観察中のところをお邪魔して一緒に撮影した。この日の前後数日の間に、少なくとも2卵が産み込まれたものと推測されていた。3卵が確認されたのは、カウントダウンを迎えた高所作業車からの観察中。そして5月20日朝に最初のヒナが確認されたというわけだ。
先に抱卵に入った北の赤石地区の巣塔の3卵は、ついに孵化することなく本日5月21日、回収されて検査されることになった。若いペア同士の初めての産卵ということで、最初から孵化の可能性は低いと見られていたが、今回のペアのケースが今後の放鳥に生かされればと願う。
コウノトリを放して行動を調べるのは研究者の役目だ。我々市民はコウノトリを受け入れる環境を考え、整え、何よりコウノトリと暮らす喜びの気持ちを持たない限り、このプロジェクトは成功しない。コウノトリ、コウノトリと騒ぐだけで、ちっとも街は豊かにならないと言う人が多い。豊かさとは何か、そのことを問うているのが、コウノトリ野生復帰の本質ではないかと、私は思う。
コウノトリが生まれたところ
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