For the Love of Vinyl: The Album Art of Hipgnosis

60’s~70’sの中学から高校にかけて、多くの青少年たちの音楽ソースは深夜ラジオであった。高1の時、ピンクフロイドの音に出会った。普通のポップスももちろん好んで聴いたが、別格としてピンクフロイドが存在していた。
大学に進んで一人暮らしを始めると、待望のステレオセットを(当時はステレオコンポーネントと呼んだ)を部屋にそろえた。最初に買ったLPが、YESの「YES SONGS」。3枚組ライブアルバムだ。フロイドの「原子心母」や「おせっかい」も、この頃になってようやくレコードとして自分の部屋にやってきた。キングクリムゾンだ、ジェネシスだ、キャメルだと広がってゆくのはそれからのこと。
私の音楽生活において、YESとフロイドのLPアルバムは原点ともいうべき存在だ。そのカバーデザインを担当していたのが、YESのロジャー・ディーン、フロイドのヒプノシスである。ジャケットを一目見ただけで音楽が浮かんでくる。レコードジャケットと音楽は、決して切り離すことのできない、そのアルバムの作品そのものだったのである。
幻想イラストのロジャー・ディーンはYESの壮大なシンフォニックにマッチし、フォトコラージュの手法をとるヒプノシスは強烈なメッセージをアルバムに与えた。写真を嗜む私としては、ヒプノシスの表現方法に大いなる刺激を今も受け続けている。

前からヒプノシスの作品集が欲しいと思ってきたが、最近、アマゾンでこいつを手に入れることができた。ハードカバーの洋書であるが、英語は読まなくても写真だけで十分楽しめる。
ヒプノシスというのは1960年代後半に出てきた、イギリスのデザイン集団。3人のデザイナーで構成されていた。hypnosis という単語は催眠という意味。彼らはこれに引っ掛けて、Hipなgnosis、「ヒップな神秘的直観.」とでも意味付けするのだろうか、Hipgnosis と名乗ることにした。
この本は、中心メンバーの二人Storm ThorgersonとAubrey Powell名義になっている。Storm Thorgersonは今も様々なミュージシャンのアートワークで活躍中だ。

ページをめくるごとに、そのLPジャケットの音が鳴り出す。ヒプノシスのジャケットデザインは、いわゆるプログレッシブロック系のミュージシャンが多い。代表のピンクフロイドを筆頭に、レッドツェッペリン、10cc、ジェネシス、ピーターガブリエル、アランパーソンズプロジェクト、ウィッシュボーンアッシュ、ルネッサンス。。。 日本では松任谷由実の2枚のアルバムを担当しているのは有名。意外なところで、ウィングスやオリビアニュートンジョンなんてのもある。

巻末には249枚のアルバムジャケットのアートワークがずらりと並んでいる。知っていたり、持っていたりするアルバムも多いが、知らなかったものも結構ある。知らないアルバム、ヒプノシスのジャケットデザインを見ながら音を想像してみるのも楽しい。
LPレコードの時代、音楽はカバーアートと共にあった。耳で楽しみ、目で楽しむのがレコードであった。CDの時代になってカバーアートは矮小化し、ダウンロードミュージックの時代になって音はアートと完全に切り離されてしまった。その代わりにミュージックビデオがあるのかも知れないけど、やはりアルバムをインスパイアさせるアートは、音と共にこれからもセットで存在すべきだと私は思っている。
ヒプノシスの作品集、このイシューがはけたら、もういつ手に入るか分らない。ヒプノシスファンは、ぜひ今のうちに買っておくべきだ。永久保存版として大事にしたい一冊。


(続き)
さて、本のタイトルの For the Love of Vinyl
Vinylはビニールのことだが、ここではレコード盤の意味である。For the love of というのは、「~のために」というイディオム。つまり、「レコードのために」ということになるだろう。
ビニールのレコード盤はポリカーボネートのCD盤になり、今の音楽は「形」を持たなくなった。その意味において、ヒプノシスのレコードジャケットは、その時代を流れた音楽たちの壮大なエピタフでもある。
Confusion will be my……

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