2016台湾旅行記(その3)


台北3日目の朝は、ホテルの朝食をYさんと一緒にとった。Nさんが回復するまでY さんは残ることになり、今後の段取りなどを吹っ切れた様子で説明してくれた。北にある病院まではMRT(地下鉄)を使って通うため、朝のうちに一緒に乗り降りの練習をしておこうと提案があった。せっかくの旅行最終日、MRTで移動して市内の有名なお寺を一ヶ所、Yさんと一緒に観光しようということになった。
台湾MRTの駅務システムの一部は、私が前職の頃に開発製造に関わったユニットが使われている。随分年月が経って、そのシステムを実体験することになった。ここでは磁気券の代わりにトークンと呼ばれるコイン型のICチップを使う。販売機で運賃がチャージされたトークンを買い、それを改札機にかざしてゲートを通過してホームへ。降車時には改札機でトークンが回収され、リユース利用されるのである。清潔好きの日本では、使い捨ての切符でないと受け入れられないのだろう。もっとも、今ではスイカやイコカのようなICカードが主流だから、切符そのもが不要な時代である。

向かった先は台北観光の定番中の定番、龍山寺である。MRT龍山寺駅から歩いてすぐの場所にある。さすがに観光客が多い。日本人のグループもたくさん見かけた。ちょうど朝の読経のタイミングに入ったようで、回廊には信者が列をなして並び、本堂に向かって経を唱和していた。声と声が低く重なりあい、重厚なコーラスのように地に響いた。読経の波に包まれながら、買い求めた花を供え、本堂に手を合わせた。友人の傷が早く癒えるようにと祈る。


ホテルに戻りチェックアウト。Yさんに別れを告げ、我が夫婦だけで空港へ向かう。ホテル前のバス停で乗るようフロントで説明された。バスを待つ間、タクシーの呼び込みが寄ってきて誘った。タクシーでもよかったが、時間が十分あったのと、ちょっとした冒険心を試してみたかった。
空港方面行のバスが来た。空港直行のリムジンかと思っていたら、普通のワンマン路線バスだった。前から乗り込んで、上段の座席に荷物を持って上がる。バスが動き出しても妻がなかなか上がってこない。いくつかのバス停で乗客が乗り、ようやく妻が隣りに座った。前払い運賃の支払いで、小銭がなくて困っていたらしい。運転手に英語も通じず別の乗客を介して交渉が終わったとのこと。
バスは空港近くの街を経由し、1時間ちょっとで空港に着いた。行きはNさんがすべてリードしてくれたので何の不安も無かったが、帰りは我々が単独で手続きをしなければならなかった。チャイナエアーのカウンターでチェックインを申し出ると、あっちのセルフマシンを使えと言われる。戸惑いながら機械の操作を始めると、隣りで団体のチェックイン処理をしていた旅行会社の男性が手伝ってくれた。
チェックインを終え、ほっとしたところで遅いランチにする。フードコートで、今回の台湾旅行で食べそびれていた小籠包をオーダーした。ファーストフードの小籠包にしては、しっかり美味しかった。家族や友人への土産を買い、免税店街の書店で自分のために台湾の野鳥写真集を買った。次回はきっと、この山娘を撮影しようと思う。

到着便が大きく遅れ、折り返しの出発便も遅れた。ドリンクやお菓子のサービスで時間をつぶし、ようやく離陸。行きと同じB747は、日本へ週末旅行する台湾の人たちで満席であった。離陸時も着陸時と同じ雨の風景で、僅かの時間で視界は雨雲に遮られてしまった。

偏西風に押され、行きより短い時間で日本に入る。夕陽が落ちるのを空の上から眺め、眼下には錦江湾と桜島が見えた。瀬戸内海上空を飛び、すっかり暮れた関空に着陸した。結局Nさんは11日遅れの3月23日に帰国し、こちらの病院で長く治療を続けることになった。
今回の旅は、私たちに残りの人生についてしっかり向き合うきっかけを与えてくれた旅であったようにも思う。1年が経過し、当時の日付にシンクロさせて旅行記を書いてきた。掲載した写真の殆どは早い段階で準備してあったが、文章を書くタイミングが見つからずにいた。今日、台湾旅行の最後の記録を書き終えることで、私たち4人の台湾旅行をようやく締めくくれるような気がする。
台湾でお世話になったすべての人たちに、私たちは心より感謝する。我が夫婦の初めての台湾は、Nさんがいつも話してくれていたとおり、本当にフレンドリーな人たちの暮らす国だと感じた。やさしい人たちと美味しい料理と、美味しいお茶と美しい自然環境。この先、機会があれば何度でも訪ねてみたい、台湾はそんな素敵な場所になった。
私たちに残された時間は多くない。また夫婦4人で旅に出よう。たくさんのものを見、たくさん学び、美味しいものを食べよう。いつまでも、そんな旅を続けられる仲良し夫婦でいよう。

(完)

2016.3.12 P340

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