1995年発刊の「アニマル黙示録」は、野生動物の視線から人間社会を逆照射するコンセプト写真集であり、花鳥風月ネイチャーフォトグラファーの脳天をガツンとぶん殴る衝撃作品であった。私自身、この写真集に出会ってそれまでの写真のスタイルを変えるきっかけとなった。
「アニマル黙示録」から17年。自然界の報道写真家を標榜する宮崎学の、その後のカメラワークの集大成とも言える一冊が刊行された。それが「イマドキの野生動物」である。
「アニマル黙示録」が被害者としての動物視点に立ったとすれば、「イマドキの野生動物」は加害者としての動物視点である。この20年で、野生動物は一転して加害者側に立つに到った。その逆襲の背景にあるものを求めて、宮崎のカメラアイは日本全国の人と自然の境界線に向けられる。
そこから何を学び、人と自然界との折り合いをどのようにつけるのか。宮崎学の問いかけに私たちはそれぞれのスタンスの中で考え、行動しなければならないと思う。
「イマドキの野生動物」に掲載された様々な写真は、宮崎が1時間半から2時間をかけて全国で行なってきた講演会で使われるものが数多く収められている。これまでは講演会という場でしか聞けなかった宮崎学のメッセージが、この1冊に凝縮されているといってよい。それほどに、宮崎は惜しみなく自分のコンテンツを晒して世の中に人と自然について問い掛けてきたのである。
到着したばかりの新刊を、今は最初から最後までざっと見渡してみただけだが、この1冊にこめられた宮崎学の渾身のメッセージを、この先何年もかけて繰り返し読み直しては自分の立ち位置を考え続けて行きたいと思う。
本書のエピローグから、一節を引用する。
これからの時代は、野生動物の現状をしっかり認識し、彼らとの緊張関係をもう一度取り戻さなければならない。さもなければ、日本人はこの先100年にわたって、獣害に悩まされ続けるだろう。人と野生動物が真に共存していくためには、互いに関心を持ち、危機を認識し合って、うまくすみ分けていくことが必要だ。そのためには、自然や動物をただ花鳥風月的に愛でる自然観は、もうなくした方がいい。