丹後半島の奥深さに触れる旅(後半)


翌朝はスローに始まった。8時半からのたっぷりの朝食のあと、マスター御自慢の自家焙煎コーヒーを頂く。10時前にチェックアウトし、阿蘇海沿いに丹後半島に向かう。雪の予報に反して、朝は雲ひとつない青空が広がっていた。
途中、外海を隔てる松林を写真に撮ろうと止れば、少し離れたカモの群れが気になった。双眼鏡も望遠レンズも持たない旅なので識別は出来なかったが、白黒のカモはスズガモに違いない。随分前に、このあたりまで水鳥観察に来たことを思い出していた。

股覗きで有名な笠松公園のケーブルカー乗り場の横に、元伊勢・籠(この)神社がある。朝の清々しい気分で拍手を打つ。

そこから歩いて10分ほど離れて真名井神社がある。最近流行りのパワースポットと呼ばれる霊場のひとつらしい。入口のお地蔵さんに「波せき地蔵堂」の看板があり、それによれば1300年ほど前に起こった大地震で大津波が押し寄せ、ここで切り返したと伝えられる。
折りしも、今日は東日本大震災からちょうど1年目の3.11。それぞれの人が、それぞれの思いで、鎮魂の祈りを捧げる日だ。私たちもこの神社で静かに手をあわせた。
ここの湧き水は有名らしく、たくさんのボトルに水をつめている人がいた。手ですくって口に含んでみたが、軟らかい味がした。

真名井神社の小さな社。周りには、注連縄(しめなわ)や幣(ぬさ)を下げた御神体らしき石や木がいくつかあって、神霊の宿る場所としての佇まいを見せている。

戻り道、天橋立の松林が低い目線で対岸に延びているのが望める。

R178を半時計周りに丹後半島の海岸線を走る。途中に立ち寄った伊根町の道の駅。海産物のディスプレイが楽しい。

天気は早い時間で下っており、高台から見下ろす伊根湾の風景もコントラストを失おうとしている。

NHKの朝ドラで一躍全国区になった伊根の舟屋群。私たちは今回初めてこの風景を見た。人と舟が一緒に暮らす風景は、人と牛が一緒に暮らしていたかつての但馬の風景と重なる。舟も牛も、その家を支えてくれる大事な家族なのだ。

棚田の法面にはスイセンが咲いていた。

その近くにはフキノトウも出ていた。
経ヶ岬が近くなる頃には風雨が強まった。あとで調べてみると、我々がこのあたりをドライブしていた時間帯に、間人地区で20mを越す強風が観測されていたらしい。

さて、本日の昼食は今回の旅のメインイベントともいえるものだった。アプローチの車内でNさんがそう話してくれたことは、この後まさに身をもって実感されることになる。
13時の予約に20分ほど遅れて到着したのは、弥栄町の魚菜料理 縄屋さん。共通の友人であるKさんの推薦で、Nさんが予約を入れておいてくれたお店。

京都の和久傳で修行を積んだ若き板さんの素晴らしい料理の数々。落ち着いた店内も料理の素晴らしさを引き立ててくれる。

前菜

若竹の椀物

お刺身

焼き物は寒ブリ

じんば飯

れんこん餅のデザート
前夜の食事と比べるのは酷なのかも知れないが、まさに量の満足ではなく質の満足である。どの料理も完璧に美味しかった。それでいてリーズナブルな料金。もちろん、私たちは十二分に満たされてお店を後にした。
たまたま丹後半島にロケに来られている写真家の宮崎gakuさんに電話を入れる。どこかですれ違ったら会うことにしていたのだが、gakuさんは私たちがすでに通り過ぎた経ヶ岬におられて、今回はニアミスということで残念だった。

縄屋の食事にすっかり満ち足りた私たちは、その充足感のまま旅を終えることになった。天気がよければもう少し奥丹後で時間を過ごしたかも知れなかったが、雨はミゾレに変わり私たちの足を早めた。
帰路の通り道で、我が家推薦の魚屋「橘商店」と、最後に久美浜町の玉川の蔵元・木下酒造に立ち寄ることは忘れなかった。昨夜の宿のバーでN夫妻が呑んだのが玉川だったらしい。イギリス人の杜氏フィリップ・ハーパー氏の存在も話題の種である。

たまたま座敷ではTVロケが入っていた。蔵内限定の純米吟醸・中汲みを土産に買って帰る。
自宅には16時半過ぎに帰着。隣町に帰るN夫妻の車を見送り、一泊二日の丹後半島の旅を終えた。
丹後半島は私にとっては鳥見ポイントに通う場所として、身に付いた馴染みの場所である。かつて幼い我が子を連れてドライブした丹後半島は、子どもの視点からの記憶でしかない。今回、大人の視点で丹後半島を巡ってみると、ずいぶんと奥の深い場所であることを改めて思い知った。
面白い人たちが、それぞれのこだわりを持って個性的に暮らしている。そんな一面を見せてもらった。交通の便のすこぶる悪い京都の奥座敷に、むしろそのような土地柄だからこそ、まだまだたくさんの魅力がひっそり残っている。近くて遠い存在であった丹後半島のそんな隠れた魅力を、またひとつずつ掘り出してみたくなった今回の旅であった。
プロデュースしてくれたN夫妻、よきアドバイスでバックアップしてくれたKさんに感謝します。

(完)

2012/3/11 GX100

0

2 throughts on "丹後半島の奥深さに触れる旅(後半)"

  1. たじまもりさま
    素敵な文章と写真で、ゆったり旅をご一緒させていただいた気分です。
    この4月から豊岡に来て10年目に突入する私ですが、来てすぐに
    藤布の保存活動をしておられる宮津の上世屋に興味を持ち、
    仕事の合間に通ったことがあります。
    なかなか通い続けられなくて今に至っていますが、以来、但馬にはない
    なんとなく洗練された魅力があるように感じる丹後が好きなのです。
    また近々、お会いいたしましょう! K (*^_^*)

    0
  2. マルコKさま
    旅の間に、幾度となくKちゃんの名前が挙がりました。今回の旅の影のプロデューサーといってもよいでしょう。お陰で楽しい旅が出来ました。特に、縄屋さんの食事の素晴らしさは特筆ものでした。これからも、ちょくちょく利用しようと決めています。
    丹後の魅力はまだまだ尽きないようです。またいろいろ教えてください。
    「マルコの雑記帳」、びっくりするほど写真が上手いですね。時々お邪魔しています。

    0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です