丹後半島の奥深さに触れる旅(前半)

2007年12月三朝温泉、2008年11月屋久島と続いたN夫妻と我が夫婦4人の「だらだら旅行」は、ここ3年実施できずにいた。3度目、久しぶりの4人旅は但馬のお隣、丹後半島の周遊プランをNさんがアレンジしてくれた。
10時半、Nさんの車にピックアップされてR312を東進。トイレ休憩がてら大宮町のスーパー「いととめ」に立ち寄る。決して広くない店内にギッシリ並ぶこだわりの食品。宝探しの楽しさがここにはある。お昼はうどんで意見が一致、少しバックして国道沿いの「坪新」に入る。ここのうどんはなかなか美味い。

12時40分、KTR宮津駅着。宮津は我が夫婦にとって初めて訪ねる町である。旧国鉄時代に豊岡駅から宮津線が出ており、宮津の名前は幼いころから馴染んでいたが、この歳になるまで訪れる機会がないまま過ぎた。
何処も同じ寂れた駅前に、かなりぶっ飛んだ大衆食堂がある。その名も富田屋(とんだや)。前に一度この店に入ったことのあるNさんご推薦のスポット。レトロな店構え、安くてボリュームのある食事は、地元客のみならず観光客にも人気らしい。うどんを食べてきたばかりなので今回は入らなかったが、次回ここに来ることがあればぜひ入ってみようと思う。

NさんのiPadを膝に置き、助手席ナビで宮津カトリック教会に向かう。Google MapにGPSポイントが落ちているだけのことだが、助手席でガイドするには十分役立つ。
天主堂に入ると、畳敷きのフロアにステンドグラスの色彩が柔らかく注いで、厳かな空気感をたたえていた。現役の聖堂としては日本最古の建物ということらしい。

次に訪ねたのが旧三上家住宅。詳しい情報はこちらから
白壁の外観がとても美しい。

有料(350円)で内部を見学することができる。玄関を入った広い土間は、造り酒屋の名残りがよく残されている。

繁栄と共に増築を繰り返した屋敷内をガイドの案内でめぐる。建具、家財、すべてが贅を尽くしたものである。

開け放った広い邸宅は底冷えがして、一回りして出された熱いお茶に人心地ついた。中に入るつもりもなく訪れた場所だったが、見学して思いのほか充実した時間が得られてよかった。ぶらり旅の楽しさである。

本日のメインイベントは、宮津市街から少し東に行った小さな集落にある飯尾醸造。料理好きのNさんらしい訪問先である。
14時の約束時間に入る。四代目・飯尾社長に案内されて、まずは蔵の見学。

蔵に一歩入ると酢のにおいに包まれる。効果的に配置された説明パネルや道具を使いながら、当社のブランドである富士酢がいかに手間とコストをかけて作られているのかを丁寧に説明してくださる。

酒が酢に変わることは知っていても、実際の製造現場で説明を聞くと酢がどのように出来るのかよく理解できる。タンクを開けて見せて頂いた醸造中の酢。上澄みの酢酸菌が酒を酢にゆっくりと変えてゆく。
この「ゆっくり」というのが大事で、大量生産品なら1日で終わる工程を3~4ヶ月かけて行うという。時が醸し出す味というのは、まさにこういうことなのだ。

酒を経るわけだから酢は米から作るのが一般的である。果実酒があれば、そこから酢ができる。甘いものであれば大抵なんでも酢になるそうだ。特に近年の健康ブームで脚光を浴びているのが赤芋酢。がん予防やメタボ対策によいらしい。
人力の搾り機の前で、酢造りの薀蓄話に耳を傾ける。「ものづくり」には「ものがたり」が必要である。物語があって初めて、商品はその価値を得るのである。社長の酢造りの物語りは一級である。すばらしい物語りが富士酢を支えている。そのことがよく分かった。

「奇跡のリンゴ」で一躍有名になった木村秋則さんの無農薬リンゴも、ここで酢に変わる。この物語もすばらしい。飯尾さんと木村さんの二つの物語りから生まれた奇跡のコラボレーション。

蔵見学を終えると売店の一画で酢の試飲。製造販売されているすべての種類を味わうことができる。酢をそのまま飲み下すので、直後に水を飲んで薄めるよう指導を受ける。
富士酢のどれもが純粋でまろやかな味である。市販の尖った酢の味しか知らないものには、何か別の調味料にさえ感じる。リンゴ酢はリンゴの風味が、イチジク酢はイチジクの風味が、しっかり酢の中に残されている。調味した加工酢も市販のものとは別物である。

商品棚に美しくレイアウトされた酢の中から、お気に入りを買い求める。飯尾さんの物語りへの敬意と感謝も込めながら。

カウンター越しの風景。富士酢のトレードマークの暖簾が渋い。

今晩の宿は天橋立駅前の酒鮮の宿まるやす。カニシーズン終了間際の書き入れ時で、Nさんが苦労して見つけてくれた。酒匠のいる宿を売りにされているようで、夜のお酒を楽しみにする。

チェックインの後、ブラっと橋立界隈を散策。土産物屋に釣り下がったタコの長い足に興味が向く。

何十年ぶりかに、おそらく小学生の遠足以来、文殊さんにお参りした。知り合いから紹介されたカフェで天橋立ワインを頂いたあと、松林を少しだけ歩いて天橋立に来たことにする。
宿から1分の「文殊の湯」で一風呂浴びる。通常料金は700円(宿泊客は100円引)と高いが、木を生かした清潔で気持ちのよいお風呂だ。舐めるとしょっぱいナトリウム・塩化物泉。ほっこり温もって宿に戻る。

広間での食事はカニのフルコースと寒ブリのしゃぶしゃぶを組み合わせた豪勢なもので、我々の普段の嗜好とは少し違ってはいるけれど、十分に堪能することができた。タグ付松葉ガニの産地は浜坂とあった。

民宿の女性陣が横に付いてカニの食べる段取りをしてくれる。都会の人がこぞってカニを食べにやってくるのは、こんなサービスが付いているからなのだな。カニの本場にいながら、こういう場に縁のない私たちは妙に納得するのであった。

刺身、焼き、しゃぶしゃぶ、ミソの甲羅焼きまで、まさにカニのフルコースであった。
ビールの後は当然日本酒。料理に合わせて酒匠が出してくれたのは由良の酒蔵が季節限定で出している「舞鶴」生酒。美味い酒だった。2杯目は名前は忘れてしまったけど、福井だったかの酒。これも美味しかった。美味しい料理に美味しい地酒にすっかり満足。最後のカニ雑炊で仕上げると、満腹のお腹を抱えて部屋に戻る。
iPadで写真を見ながら、それぞれの家族の近況を報告しあう。やがて私は寝入ってしまったようで、N夫妻はバーでさらに一杯やっていたようだが私の記憶からはすっかり飛んでおり、橋立の夜は静かに更けて行ったのであった。

(後半に続く)

2012/3/10 GX100

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2 throughts on "丹後半島の奥深さに触れる旅(前半)"

  1. 素晴らしい旅行なさったのですね!
    富士山の暖簾、本当に素敵なデザインです。
    干しダコをあぶって日本酒チビチビとかやってみたくなった。
    関東でもアメ横に行けばあるかしらん?

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  2. zun さん
    気の置けない友達夫婦との気取らない旅はいいものです。
    富士酢の命名は、日本一の酢を作るという先代の思いからだそうです。
    まさに、そんな思いのこもった酢造りの現場でした。
    いつか4人でパリに行くことがあれば、zunさんを頼って行きますのでその節は宜しくです。

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