となりのツキノワグマ 宮崎学


宮崎学の新刊「となりのツキノワグマ」がいよいよ発売となった。gakuさんの3冊目のツキノワグマとなる本作は、近著「カラスのお宅拝見!」に次ぐ、新樹社のDeep Nature Photo Bookのシリーズ第2弾となる。装丁も同じで、気軽に手にとって開ける写真集となっている。
gakuさん自身が、ブログ「gakuの今日のヒトコマ」で本作について語っておられる。相当力の入った自信作として受け止められる。
「カラスのお宅拝見!」と見せ方は同じである。圧倒的なコマ数でツキノワグマの生態写真がフラッシュのように迫ってくる。gakuさんによれば、使った写真の数は377枚というから半端ではない。
氏の過去2冊の熊の本と基本スタンスは変わらない。ツキノワグマは確実に増えている。しかも、あなたのすぐとなりにいる。卓越した観察眼と技術で撮影された写真の1枚1枚が、その事実を雄弁に語りかけてくる。熊の近づくひそやかな足音、うなり声、息遣い、体臭、そんなのがページから溢れてくる。
研究者の仕事は大切である。しかし、論文を書かんがためにその生態の一端を捉えただけで、他人の同じような仕事を引用しながら総体を論じるような手法は、ツキノワグマのような相手を前にいささか不遜に過ぎるのではないか。夜行性で、臆病さと凶暴さを併せ持つ哺乳類の生態の真実にどう迫るのか。そこには、自然界全体を立体的にとらえる研ぎ澄まされた五感が必要である。
この本はgakuさんでしか成しえない、21世紀日本を生きるツキノワグマの実態をゆるぎない事実として伝えるフォトルポタージュである。そして、氏の仕事はこれが集大成では決してない。さらに秘められた彼らの暮らしぶりに、カメラが迫ってゆくに違いないのだ。今回の作品は、その経過報告に過ぎない。次にどんなツキノワグマの姿を見せてくれるのか、私たちは楽しみにしながらこの写真集の最終ページを閉じることになるだろう。
gakuさんは言う。私は研究者ではない。黙して語らぬ自然界を、写真を通して語らせるのが自分の仕事だと。
Seeing is believing とは、まさにこのことだ。
gakuさんが示してくれる自然界の営みの一端を知ることで、私たちの「となり」に息づくたくさんの生きものたちの命に目を向けるきっかけになればよい。そして、その命のいとおしさを思うとき、私たち人間もそのものたちと同じ地平の上で生かされていることに改めて気づくべきである。
「となりのツキノワグマ」は衝撃の写真集である。熊にかかわる研究者や役人への痛烈な挑発作品でもあると同時に、gakuさんのツキノワグマに向けた限りない慈愛の書でもある。多くの人に読んでもらいたい1冊だ。

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