林道がダートからアスファルトに変わる右コーナーで、ロードミラーの端っこに黒い影がチラっと見えた。ひょっとしたらクマかもしれないと、コーナー手前でスピードを落とし、ゆっくりハンドルを切った。いた! しかも、小さな仔熊を連れた親子だ。車を止め、カメラを準備する間もなく、クマはこちらへ突進してきた。これには焦った。開け放った窓を閉める余裕もなく、(おそらく)母熊は全速力で車の左フェンダーをかすめ、左斜面から谷へと駆け下りて行った。少し遅れて、仔熊が可愛らしい声を上げながら母を追い、母熊が斜面を下りたのを見ると、その場から谷へ下りて行った。
ツキノワグマとの遭遇は何度かあるが、このような状況は今回が初めてである。親子連れとの鉢合わせで事故が多いと聞くが、実体験として全速でこちらへ突進してくる熊を目の前にすると、なるほど、なすすべもなくこちらがフリーズしてしまうことがわかった。危険を感じて、止めた車を発進させたのが良かったのか、私の車の真横で熊は路肩からエスケープした。
親子熊の写真が撮れなかったことを残念がっているうちに、そうだドラレコがあった、と気づいた。ドラレコの動画と、そこから切り出したいくつかの場面を以下に掲載する。運転中の遭遇で良かったものの、徒歩で同じ場面に出逢っていたとしたら、どのような対応ができただろう。あるいは、できなかっただろう。
2022.8.10 ドライブレコーダーの記録動画より編集
【追記】
これまでのクマとの出会いでは、必ず向こうが遠ざかる方向に逃げて行った。今回はどうして敢えてこちらに向かってきたのかを考えるうちに、次のようなことを思ってみた。
(1)母熊が子熊を連れて散歩に出ようとした途端、私の車が姿を見せた。
(2)子熊の1頭は母熊の後を付いてきたのに、もう1頭(あるいはもう2頭)の子熊が、私が車を止めた場所に留まったままなのではなかったか。
(3)母熊は、決死の覚悟で、私の車の横でフリーズしている我が子を守ろうと、こちらに突進してきたのではないか。