25年の約束の森へ(3)


早く起きて朝風呂に浸かった。露天風呂に出ると静かに雨が降っていた。吹き抜けロビーの窓に、モッチョム岳のシルエットが重なって見えた。旅なれたNさんが用意してくれた、フリーズドライの御粥を戻して簡単な朝食。
旅の最終日、午前中しか時間がない。早めに宿を後にする。

海岸線を西に向かう。途中、平内の海中温泉に立ち寄る。地元の男性が一人、お湯に浸かっておられた。湯加減を聞いたら熱いとのこと。満潮時には海中に沈んでしまう温泉。干満の時間によって湯加減が変わる。
昨晩のうちにこの温泉に入る予定でいたが、提案前に4人ともアルコールを入れてしまったのでボツとなった。満天の星空の下で入る海中温泉は乙なものだが、雨も降っていたから今回は心残りもあまりなかった。

栗生の集落を抜けると人家は途絶え、西部林道が永田まで繋がっている。その入口に大川(おおこ)の滝がある。水量は思ったほどではなかった。雨の多い季節には、山から集めた水が大瀑布となって落ちている。ここからは辿ってきた道を引き返す。

中間のガジュマルは島内でも最大級のもの。NHKの朝ドラのロケ地にもなったそうだが、観ていないので分からない。

ここから少し山に入ったところに屋久島フルーツガーデンがある。山尾三省さんのお友達がやっておられて、25年前にも立ち寄った場所だ。すっかり立派な観光施設になっていたのに驚いた。当時はいくつかのビニルハウスが並んでいるだけの、いわば果実畑のようなものだったと記憶する。
次々に訪れる観光客をグループごとにまとめて、園内をガイドしてくれる。南国ムードいっぱいの園内は、不思議な果物がたくさん実をつけていた。

一周すると庵の中で果物を一切れずつ食べさせてくれる。ひとつひとつの個性的な味を楽しんだ。
ほどなく園長と呼ばれている人物が、ガイドを終えて戻ってこられた。挨拶をし、25年前のことを話した。当時から比べて随分貫禄の出た風体になっておられたが、面影を記憶の中から引っ張り出すことができた。
「三省さんも、早すぎたよね。生きていたら、それこそ自分が聖老人になってたのに…」
※「聖老人」は山尾三省さんの出世作
ぽつりと園長は呟き、じゃあ25年後のやつを味わってみてよと、果物棚からパパイヤを一つ渡してくれた。

尾之間を過ぎてトローキの滝に寄ってみる。海に向かって山道を少し歩いて下りたところに展望所があった。千尋の滝から落ちた水がここで海に戻る。

土産物を買い、道沿いに見つけたカレー屋さんでランチ。レンタカーを返して空港で時間待ち。
我々の乗る便は天候調査中のアナウンス。鹿児島から飛ばないときは欠航となる。前線の影響で空が荒れている様子だ。

そういえば、と思い立ち、空港に咲いているハイビスカスをようやく撮った。島の道沿いには、いたるところでフヨウの白い花やハイビスカスの赤い花が咲いていた。蝶も飛んでいた。

定刻から少し遅れて鹿児島からの便が着陸した。折り返しの飛行機はよく揺れたが、25分の我慢で終わった。鹿児島で乗り継いで伊丹に着く頃には、あたりは暗くなろうとしていた。空港駐車場に預けた車で豊岡に戻る。
25年前の10月、標高1935mの宮之浦岳を目指した我々夫婦は、山頂を目前にしながら時間切れで引き返した。悔しかったが、私の登山計画の拙さのせいだった。子育てから開放されたら、きっとまた二人で屋久島に来よう。そして山頂に立とう。そんな約束をしあった。
友達夫妻と巡った今回の旅は、私たちの約束を果たす旅でもあった。山頂は今回も見送ったが、白谷雲水峡とヤクスギランドの森歩きで満ち足りた気分になった。ピークに立てばあとは下るだけ。目指すべき高みが残っていることが、これからを生きる力となってくれるのではないか。そんな風に思いながら、私たちはまた次の屋久島行きを夢見ることにしよう。
楽しく、深く思い出に残る旅をご一緒したNさん夫妻、ありがとう。
さて、来年はどこにしようか?
(完)
撮影:2008/11/9 R8

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です