≪前半
7時半ごろだったかに布団を抜け出し朝風呂へ。夜中に雪が降ったらしく、屋根や庭の一部が白かった。そんな朝の風景を湯船からガラス越しにぼんやり眺める。上がりがけにKさんが入ってきた。
ご婦人方もそれぞれに朝風呂に入って身なりを整えた。風呂上りでだらだらしているうちに仲居さんはさっさと布団を上げて、いつのまにか朝食の準備が出来ていた。食事の世話をしてくれる仲居さんは、昨晩と朝とは違った女性だったが、どちらも素朴で感じのよい人だった。
たっぷりの朝食を平らげ、Yさんが持ってきた本の一部を読んで聞かせてくれた。古い三朝温泉のことが記述されていて、Yさんはそのことが記憶に残っていたのだという。その中に出てくる株湯も、今回の旅で自分の足と目で確かめることができ喜んでいた。Yさんが読んでくれる随筆の一部を聞きながら、今自分たちがそこにいる不思議を感じるのだった。
Kさんはノートパソコンに向かっていた。彼のPCはどこからでも無線でネットに繋がる。もっぱらビジネス目的での利用だが、旅先でリアルタイムにブログ記事を入れるのも密かな(大きな?)楽しみらしい。356日、彼のブログは毎日更新され続けているからすごい。そんな様子を大広間の廊下越しに撮影した。モミの木の立つ中庭越しに、我々の泊った部屋が見える。下はフロントロビーだ。
10時ちょっと過ぎにチェックアウト。玄関にほかの靴が無かったから、我々が最後の客のようだった。ゆっくり気持ちよく過ごさせてもらった満足感があった。仲居さんの話では客足は伸び悩んでいるという。こういう小さな宿は口コミが客足を左右するが、今回利用した宿はほかの人にも勧めてあげよう。「三朝温泉 もみの木の宿 明治荘」
時雨れていた空が明るくなった。仲居さんが今日は無理でしょうと言った三徳山投入堂、車で少し谷を入った路肩の遥拝所から、雨雲を割ってその姿を望むことが出来た。前に妻と二人で同じ場所から見上げた投入堂、友人夫婦と一緒にまたこうして来ることができたことが、今回はことのほか嬉しく思えた。
三佛寺にお参りする。妻と二人のときは入り口まで行って引き返した寺だから、今回初めて中に入った。降った雪があたりに少し積もっていた。いくつかある堂を巡ってゆく。雪囲いがされて、冬支度も終わっている。
急な階段は多くの参拝者が上り下りし、人のよく通るあたりはすり減ってへこんでいる。すり減った石段は定期的に交換され、その古材を利用して石大工が地蔵仏を掘って奉納するのだそうだ。あちこちに地蔵さんが並んでいるのはそういう訳もあるらしい。
本堂は屋根の葺き替え工事中で、お参りはプレハブの仮本堂。これは有難味が無いが致し方のないことである。改築工事に少し協力金をお納めして、いろんな願いを掛けてきた。なお投入堂への登山路は来春までの間閉鎖になっている。次回訪れることがあれば、ぜひ修験道の道を上まで辿ってみたいものだ。
倉吉の観光地をぶらぶらと歩いてみる。我が夫婦にとってはここも二度目。この前はずいぶん昔のことだが、街並みはそっくりそのままだった。
白壁と赤瓦の景観は美しいし、案内板なども控えめでよいと思う。しかしこの景観の中を流れる川は、所々でゴミが沈んでいるのが目に付いた。観光客のポイ捨てが主なものだろうと思うが、管理の手間からゴミ箱を設置しない場所が増えたことも、こういった事情に加担しているのかも知れない。しかし、いずれにしてもマナーというのは、その人を巡る家庭教育やら交友関係の帰結であるから、すべての人に等しく道徳を望むのも無駄なことではある。しかし、もう少し何か仕掛けることはできると思う。
朝からたっぷりお腹に入れたので、遅めの昼食は蕎麦にした。最初に目に付いた手打ち蕎麦屋「土蔵そば」に入る。蔵構えの不思議な店で、無人の一階フロアは、ここがかつて写真屋さんであったことを思わせた。中二階にちょっとした民芸のショーウィンドウがあり、2つ目の階段を上るとようやく人の気配がした。
奥が蕎麦屋であることは看板で分かったが、ちょうど蕎麦を打ち始めたからこっちには入るなということだった。おかしな店である。代わりにレトロなムード漂う手前の喫茶室に通された。客は結構入っていたけど、蕎麦を食う雰囲気とは違う空気があった。待つことしばし。熱い蕎麦と冷たい蕎麦をめいめいが頼んだが、どちらもとても美味しかった。二段の土蔵そばはツユをぶっ掛けで食べる。柚子を散らした蕎麦湯もよかった。初めての店だったが、倉吉に来たときはまた入ろうと思う。
帰路につき、国道が海岸線を沿うようになると雨が落ちてきた。白兎海岸の道の駅で一休み。昨日三朝に向かうときにも掛かった虹が、旅を終えようとする私たちの前に再び掛かった。行きも帰りも虹が綺麗だったね。そんな話で車内が盛り上がった。
さて、次はどこに行こうか。旅のゴールにはまだ少し時間があったが、口をついて出た。お互いがそれぞれのペースで行動しながら、干渉せず、気使うことなく、同じ価値観を共有することができた。いい旅が出来たなあ。4人が4人ともそう感じていた。iPodからはビートルズのナンバーが続いていた。
”Let it be” そうだね、それがいい。
さて、ほんと、次のだらだら旅行はどこにしようか。
撮影:GX100
冬の山陰路だらだら旅行(後半)
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