三宮ガード下。量販店にはない楽しさ、わくわく感が、ガード下に並ぶ小さな店にはある。10月にタイのカエルの楽器を買った店、店のおばちゃんに「きっと、また来ますからね」と約束した。神戸での仕事を終えてから、迷わずこの店に向かった。
品のよい女性店主は、私のことを覚えてくださっていたようだ。「前に大ガエルを買った者です、また来ましたよ」と告げると、やさしく微笑んで迎えてくれた。前回は店の名前も覚えていなかった。おばちゃんに店の名前を尋ねた。「Copoon、コップーンっていうんですよ。タイ語で『ありがとう』という意味です」と教えてくれた。
許可を得て店構えの写真を撮らせてもらった。ホームページ掲載の許可ももらったから、堂々とお店を紹介できる。良いお店は、こうして口コミで広まってゆくものだから、気に入ったお店は他の人にも是非知らせてあげたいし、機会があればぜひ立ち寄ってみて欲しいと思う。
アジア雑貨を扱うCopoonには、私が幼き頃の駄菓子屋を思い出させるのだろう。細々したアジアの雑貨が所狭しと並んでいて、その一つ一つを確かめながら何時間でもここに居てしまいたくなる。エスニックな装飾品は赤を基調とした鮮やかな配色のものばかり。お店全体が赤く染まっている感じだ。日本の民芸品には無い温度感の品物ばかりだが、色・形は異なってもアジア民族として心惹かれる共通項を感じてしまう。
ドニパトロ(シンギングボウル) 直径16cm
今回は最初から目的があった。カエルを買ったときに気に入った2つの楽器を手に入れること。その一つがこれ。ネパール製とのことだが、チベット密教の法具。現地ではドニパトロと呼ばれているらしい。一般的にはシンギングボウルの名で知られている。直訳すれば「歌うお椀」。
楽器と書いたが、音階が出るわけではない。もちろん、本来は宗教的な目的に使われるものだから、楽器というのも相応しくないのかも知れない。音の出るものすべてを楽器と呼べば、この法具も楽器である。日本の仏壇にあるチン(正式にはリンと言うらしい)と思ってもらえばよい。今回求めたドニパトロは、広口の食器のボウルの形状をしている。仏壇のリンと同じようなドニパトロも置いてあったが、どうしてもうまく音を出せなかったので、最終的にこちらを選んだ。
音の出る仕掛けは、ワイングラスの縁を濡れた指で回すと共振音が出るアレと同じである。木製の棒でボウルをコンと一発叩き、振動が続いている間に棒でボウルの縁をゆっくり撫でるように回すのである。そうすると、共振周波数の倍音が次第に大きくなって発音するというものだ。
ボウルの外側はこのようなデザインになっている。ブッダの顔をモチーフにしたものだろう。手のひらにボウルを乗せて音を出すのであるが、慣れるまではちょっと時間がかかる。うまく音が出ると嬉しい。その音は、はやりの言葉でいえば「ヒーリング」効果をもたらす。法具であるから、お経とともに、こういう音も大切な祈りのための要素なのだ。音が出たときに手のひらに伝わる微妙な振動がまた心地よい。
ティンシャ 直径4.5cm
もうひとつ、同じネパール製の法具を買った。おばちゃんが包装紙に「チンシャベル」とマジックで書いて下さった。ネットで調べてみると「ティンシャ」で沢山ヒットするから、これが一般呼称だろう。二つの扁平なベル同士を当てて音を出す。チ~ンという澄んだ音色が、やはり「ヒーリング」である。ネットで調べると、ヨガの瞑想からの目覚めの合図にインストラクターが使ったりするらしい。チベット密教の祈りの現場では、日本のお経の間にリンが鳴るように、ティンシャをチ~ンと鳴らすのだろう。
経の文字が彫り込んであるのと、竜のデザインのものがあって、後者のものを選んだ。音色はどちらも同じ。ベルの径や材質・形状で音色が違ってくるのだろうから、また別のティンシャに出合えたらいいなと思う。
音というものは、原始の時代から人の心と共にあった。人は音を出すためのさまざまな道具を作り、喜びの時も悲しみの時も、言葉とともに楽器を伴奏した。いわゆるミュージック・音楽とは別のところで、音というものは常に人の心と響きあうものである。自分の心に響く音を、これからも求め続けてゆきたい。
2つの楽器を鳴らすたび、行ってみたことの無いはるか遠き国チベットからの風を感じるような気がする。
Copoonのお店情報はhttp://piazza-copoon.com/
チベットからの風
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