よい本に出会ったときの豊かな気持ちを、久しぶりに味わった1冊である。
長い風雪を耐え、なおも凛として立つ丘の上の1本の柿の木。その春夏秋冬の姿を、ただひたすら同じアングルで撮り続けた。それだけの写真集である。
しかし、どんなに饒舌な文章で飾られた書物よりも、ここにある写真の1枚1枚が語るメッセージは、静かに、しかも強く、読み手の心の奥底まで染み込んでくるのだ。添えられた短い文章は、写真自身が持つ「視覚言語」と読み手の心をつなぐ糸。手繰りよせれば、私たちは、街を見下ろし、キツネを遊ばせ、雪を積もらせる柿の木自身になる。
人が自然の中で生かされているということを、しみじみと思い馳せる。そんな素晴らしい写真集を、みなさんにもぜひ開いてもらいたい。
「柿の木」 宮崎学著
税込価格 : 1,260 (本体 : 1,200)
出版 : 偕成社
サイズ : A5判 / 79p
ISBN : 4-03-745110-7
発行年月 : 2006.10
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