土の記


久しぶりに高村薫を読んだ。新刊の「土の記」は上下二巻とボリュームがある。図書カードがあったので、地元の書店で購入した。
高村薫は「マークスの山」「照柿」「レディ・ジョーカー」といったミステリーの代表作はだいたい読んできたけど、図書館で借りて来て途中放棄した作品も何点かある。とても疲れる文体で、しかも、執拗なまで微細な現場記述に読む気をそがれる。
今回の作品は水稲に関し、これでもかという細かい説明が時系列に続いてゆくが、我慢して最後まで読み通すと充足した読後感が訪れるだろう。ただし、今回の長編は読み手の年齢を選ぶ作品だと思う。私自身、主人公の心の動きや、進んでゆく脳神経の劣化に共感できる年代に達したので、この作品全体に共鳴できたけど、若い人にはつまらない小説なのだろうと思う。刺激的なことは何も起こらず、淡々と中山間地の日々の生活が書かれるだけだ。
人間関係、とりわけ家族関係のありようを問い、対比として自然界の淡々さを見つめ、しかし、よりべであるところの自然も、災害という前に人間は無力であることを投げかけ、短い時間軸の長い小説は幕を閉じる。万人向けではない。けれど、特に還暦を過ぎた方々には、読んでみる価値のある作品だと思う。
 

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です