美方郡香美町村岡区柤岡(けびおか)は、熊波の谷を見下ろす急斜面に、小さな集落が張り付くように肩寄せ合っている。高い山からこの山村を遠望すれば、まさに「天空の」という形容詞が似合いそうな、人々の静かな暮らしがある。
その村に、ナチュラルキッチン・自然庵がある。そのパンフレットのキャッチである。
山の上のちいさな村に、
おいしいごはんが待っています。
気になっていた山村のイタリアンに、ようやく行くことができた。
そして、その料理の美味しさと居心地よさに、私たち夫婦は久しぶりに大きな満足感に充たされた。
12時の予約に少し時間があったので、近くの柤(けび)大池に寄ってみる。わが子たちが幼いころ、但馬牧場公園に行く途中に一度寄ったことがあるだけの公園だが、歳をとって再訪してみると、また違った趣きを感じるものである。池を15分ほどで歩いて一周。今度はティーセットを持ってきて、ここでのんびり過ごすのもよい。
村の中ほど、ちょうど全但バスの終点停留所の前、大きな石垣の屋敷が自然庵である。うっかりすると通りすぎてしまうほど、普通の民家の佇まいをそのまま残してある。庭の隅っこの五葉松の大木が目印。駐車スペースは、この五葉松の下あたりに用意してある。
ありふれた民家の引き戸をあけると、それは「千と千尋」のトンネルを抜けたときのように、別空間へと誘われる。もともとは畳部屋だった広間を、ワンフロアのフローリングにリフォームしたダイニングは、囲炉裏が切ってあり、ハンモックが下がっており、席はそれぞれに違った趣向でしつらえてある。
私たちが一番客だったので、好きな席を選ぶ。窓際の、ハーブの植わった庭を見渡す座卓をキープした。
オーナーシェフの奥様が、行き届いたサービスをしてくれる。ランチセットのメニューを運んできてくれ、二人がそれぞれ違ったパスタをオーダーする。
前菜のプレートは、そのどれもが、素晴らしく美味しい。オーガニックの素材をそのまま活かした、決して味付けで誤魔化そうという意図のない、ピュアな料理である。最後に口に入れたコロッケはここの名物とか。黒米とクリームチーズの絶妙なハーモニー。
自家製のパンもナチュラルテイスト。このオーガニック・イタリアンにはオーガニック・ワインということで、妻がグラスでオーダー。ハンドルキーパーはノンアル・ビアで我慢となった。
私のメインディッシュ。「スルメイカと水菜とすだちのペペロンチーノ」
すだちが、素晴らしい仕事をしてくれる。
妻のメインディッシュ。「うちの野菜のジュノベーゼ」
自家栽培の野菜とバジルソースの絶妙なハーモニー。
食後のコーヒーと紅茶で、たっぷり満足感にひたり、お店をあとにした。
ご夫妻は6年前に東京からUターンされ、もともとイタリアンシェフだったオーナーが、山村ならではのオーガニックなイタリアンレストランを開業されたとお聞きした。都会育ちの奥様のスマートなサービスは、私たち夫婦にはとても心地よいものだったし、オーナーシェフの料理は本当に素晴らしかった。
お気に入りのお店がまた一つ増えた喜びを余韻に、つづら折りの坂道をゆっくりと下って行った。
ナチュラル・キッチン ジネンアン
美方郡香美町村岡区柤岡632
電話 080-3206ー5033
営業時間 11:30~15:00(期間限定、要問合せ)
2015/9/28 D7000+SIGMA10-20