伊那から飛騨へ 男二人旅(後半)


旅の最終日。高山から白川郷に向かう途中、koh氏の案内でオークビレッジに立ち寄る。いわずと知れた木工製品の高級ブランドメーカーである。9時半の開店前に到着したのだが、準備中のショップの方が店内に入れてくれた。傾斜地を利用したおしゃれでユニークな建物だ。

店内は欲しいものが一杯並んでいたが、財布の中身と相談しながらお土産を選別した。次男が小学生の頃、絵画コンクールで入賞した記念品がオークビレッジの筆箱だった。同じものを商品棚に見つけた。

飛騨清見インターから東海北陸道を北上、白川郷インターで降りると目的地はすぐである。川向こうの公営駐車場に車を入れ、歩いて白川郷の散策に出る。世界遺産に指定された合掌造りを、初めてこの目で見た。豪雪に耐えるよう、東と西に向いた急傾斜の萱葺き屋根を持ち、上階は養蚕の風通しのために、南北の切妻に大きな窓がある。その独特の建築物は、古き良き日本の山村生活を今なお伝え続ける貴重な遺産である。同時に、村の人々の普通の生活の場でもあるのだ。

合掌造りの1階には囲炉裏が切ってあり、天井のスノコ状の空間を介して上階まで暖気や煤(スス)が上がってゆく構造になっている。

煤は長年にわたって柱に厚くコーティングされ、材木の防虫や防腐としての役目を果たしている。たまたま入ったこの五階建ての合掌造りでは、階上に養蚕の道具や、農具やらが展示物として保管されていた。

村から歩いて坂道を15分上ると、白川郷全体を見下ろす展望所に出る。白川郷といえばこの風景。ステレオタイプな写真であるが、自分がその場に立ってシャッターを押したという値打ちはある。この時期、水田の緑がとりわけ美しい。

お昼はやっぱり蕎麦。村中にある蕎麦屋に入った。これまた美味しい蕎麦だった。

白川郷を見たあと、地道を30分ほど北上して富山県の五箇山合掌造りを見学。世界遺産は、白川郷と五箇山を含めた合掌造り集落が選定されているのだが、白川郷が規模も大きく有名な分、五箇山は少し地味な立場にある。実際、訪ねた相倉地区はこじんまりと山の中に佇んでいた。

合掌造り民家のいくつかは民宿の看板が上がっており、山村の暮らしを体験する観光客で人気なのだろう。見学を終え車で坂道を下る途中、バックパックの外国人家族が村に向かって歩いて行くのにすれ違った。今晩は合掌造りの民宿泊りに違いない。

五箇山から地道をさらに北上し、福光インターで再び東海北陸道に入る。あとはひたすら高速を走って西に向かうのみ。途中の金沢は通過だけだったが、今度は夫婦同士、金沢の街を歩いてみたい。そんな話をkoh氏と交わしながら、つかの間の北陸に別れを告げ、福井の敦賀インターでR27に下りた。

小浜インターで舞鶴道に入る。往路で見つけたユニークな看板を助手席から撮影。この路線では鹿とはまだ遭遇したことはないが、はねられたイノシシが路上に転がっていたり、法面に猿軍団を目撃したことがある。山を切り開いて新しい道路が付き、人々は利便性を享受する代わりに、野生動物との接触事故というしっぺ返しを食らっている。

福知山が近づくと西の山の端に夕日が落ちてゆくところだった。携帯電話がバッテリー切れになり、koh氏のiPadから妻に帰宅時間をメッセージする。二泊三日の気ままな男二人旅が、もうすぐ終わる。妻からの返信を読み上げると、koh氏がこう送り返してと言った。「やっぱり4人いっしょがいいよね」 

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です