変人奇人のつどい

但馬変人倶楽部というおっさんグループがある。まことに怪しい人たちの集合体であるが、私はそこに出入りを許される数少ない人間である。大変名誉なことであり、しかも、彼らの定義によれば、変人の上をゆく奇人ランクに私はいるらしい。事務局長Ｆ氏は自分だけは普通人と公言して憚らないが、変人度も極まれば普通の尺度が一般的な社会通念から乖離したところに行ってしまうものらしい。さらに、自分たちの変人度は、ほかの奇人に比べたら症状が軽いのだとおっしゃっる。それは、無い。

料理好きのヱビスさんが場を仕切ってくれる。この新春の宴のために、何日もかけて仕込みをしてくれたそうだ。十分煮込んであるおでんを囲みつつ、酒は私が差し入れた王禄超辛口をまわす。ちょっと前になるが、Ｙ氏の宅配で初めて口にした超美味ヱビス豆腐の企業秘密も暴露された。出来立ての豆腐は何も掛けずにそのまま食べるのが最高だ。
ほどなく「Super」登場。スーパー変人なのか、スーパー奇人なのか、いや、彼の場合は変人奇人のカテゴリを遥かに超越した存在であるから、ただ単に「スーパー」と呼べばクモ山人のことだと、暗黙の了解があるらしかった。

クモ山人はサザエを焼き、究極のナマコ料理を手際よく作ってくれた。竹野の海のナマコはクモ山人の育てた大根と絶妙なハーモニーを醸し出した。モンゴルの育毛事情に一同サプライズしつつ、箸はどんどん進む。
事前に提案しておくべきだったが、まあ鳴り物があった方が楽しいだろうとギターを積んでいった。コテージに持ってあがると、２４ビットのデジタル録音機が２台も出てきた。録音機材は、寝込んだメンバーのイビキを録音するために持ってきたとおっしゃる。そんなの携帯のボイスレコーダ機能でええやんと思うけど、変人倶楽部の方々はイビキ一つ録るにも２４ビットのサンプリング百なにがしKbpsでなければ納得が行かないらしい。
飲み会のカラオケはシラケてしまうが、ギターで懐メロ大合唱は楽しいものである。みんな同世代だから、出てくる歌も同じ。しかし一同ボケが進行中であり、歌詞が出てこないのが難点である。岡林とか言われても、一番を際限なく繰り返すのみ。次回はきっと歌本が準備されるに違いない。

最後に登場したのが西の奇人イッコウ君。彼の奇人度もスーパーの次点くらいに位付けされるから、出てくる話が半端ではない。クモの生殖器ウォッチは外だけでは駄目で、中までめくってみないといけないらしいし、コウモリの陰茎骨の立つときのメカニズムに到るまで、ため息をつきながら耳を傾けたものである。写真はイッコウ君差し入れの浜坂ちくわ。
浜坂ちくわの芯は銀色のダンボールの細筒であるが、スーパークモ山人氏がこれを削って篠笛に仕立てたものの、満足のゆく音が出ず不本意そうだった。２本のちくわの芯は、結局鍋蓋叩きのスティックに利用された。

手打ち蕎麦に続き、仕上げに登場したのがヱビス特製の穴子丼。ご飯が俄か炊きだったのが少し残念だったが、しっかり身のしまった穴子と、掛け汁のバランスが絶妙であった。
それぞれの探求分野のこぼれ話、高額道楽道具の導入プロセス、次回は幼菌フェチのイナバを招こうなどの決議も行われ、一人二人とダウンしながら夜は更けて行くのだった。そうそう、４の５がどうたら、そろそろ近いから、みんなで遺影撮影会をしようとか、そんな話もあったので忘れないようメモしておく。変人のみなさん、ピカ一の笑顔で遺影を飾って欲しいらしい。
但馬変人倶楽部に認められることは、そのフィールドワークが高く評価されることであり、お互いの領分を侵すことなく、また楽しみは共有しつつ、ひいては但馬の自然史研究を底上げしてゆくことでもある。それにしても、楽しい人たちだ。そして実のところ、周りへの心配りを決して忘れない紳士の集まりでもあるのだった。
撮影：GX100