1年前はうだる暑さの中、この湿地を訪ねた。6月のトキソウも8月のサギソウも、とうとう見つけることができなかった。ついに絶滅してしまったのかと暗い気持ちになったものだ。
それでも希望を持って、少し時期的に遅いかも知れないと思いながら、妻を誘って午後から湿地に入ってみた。湿地の入口では開花したばかりのミズギボウシを見つけた。
「あった!」と妻が大声で叫んだ。山陰にひっそり、2輪の新鮮なサギソウが凛として咲いていたのだ。2年ぶりのサギソウだったから、喜びもひとしお。生き延びていたんだなと安堵する。
そういえば、その昔、この湿地を最初に案内してくれたのが父だった。今年のサギソウは、亡き父が見せてくれたのかも知れないと思ってみるのは、少しセンチメンタルに過ぎるだろうか。
魚露目で環境も入れて撮っておく。結局、この日は5輪の開花を確認できた。湿地の奥に一人で踏み込むと、ちょうどイノシシの親子が泥浴び中であり、突然の人間の登場に慌てふためいて逃げて行った。親イノシシが、「ブォ!」という大きな威嚇の声を上げて走ったが、こちらに向かってこなくて良かった。
崩落斜面を見上げると、そこにはシカがこちらを見ていた。人の寄り付かないこの湿地は、イノシシとシカの楽園である。
この日は朝から湿度が低く、乾いた空気が肌に爽やかだった。空にはもう秋の雲が広がっていた。
2009/8/23 D90+SP90MACRO, GX100+Gyoro8
サギソウと秋の空
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