前日午後から降り出した雪は、午前中いっぱい残った。対岸に定着しているオ ジロワシを時々強まる降雪の中で観察する。距離のある止まりものはデジスコ が最適である。もうこの撮影法をやめて何年も経っているから、すっかりやり 方を忘れてしまっている。前夜、古いコンデジの電池を充電し、試し撮りをし てから現場に持ち込んだ。Coolpix5000、ニコンの500万画素のデジカメだ。 雪のせいで眠たい写真しか撮れないが、デジスコのオジロワシ*はさすがに大き く撮れる。時おり陽が射すようになると大きく伸び*をし、やがて上流へと飛び 立って行った。 オジロワシは川沿いに次の橋まで飛び、Uターンして集落内の電柱に止まるの を確認。車で止まった電柱のあたりまで向かうも、すでに姿が無かった。川沿 いをもう一度チェックすると、対岸の河原にオジロワシが下りており、2羽の カラスが付いているのが見えた。獲物を確保しており、ハシブトカラスが隣で おこぼれを狙っている。 見たいと思っていたオジロワシの捕食シーンに思いがけず遭遇した。それにし ても黒くて長い獲物は何なのだろう。ヌートリア?ネコ?タヌキ? いやいや ひょっとしたらオオサンショウウオか? 一番考えられる魚には見えないし。 気になる獲物をチェックすべく対岸に回りこむ。しかしこちらからのアングル でもその実態はよく掴めない。警戒されてオジロワシが短く飛んだ。 元の位置に戻り、獲物へのアプローチを再開したオジロワシの捕食シーンの定 点観察を開始する。20分ほど警戒していたが、ようやく雪に埋もれた獲物に 近寄り引きずり出した。後で残渣を調べて分かったのだが、結論を先に言うと、 オジロワシのこのときの獲物はサケだった。大きなサケの死骸である。日本海 からこの川まで遡り、子孫を残して命果てたサケ。川底に沈む腐敗の進んだ黒 いサケを、オジロワシは目ざとく見つけた。 カラスはしつこく付きまとい、オジロワシは餌の確保に執念を見せる。別カッ トのこの写真は、黒いタイツ姿の人を思わせておかしい。カラスが諦めて飛び 去ると、ようやく落ち着いて食べ始めた。やっぱり頭の方が美味しいようで、 サケの頭は見る見るうちに骨だけになっていった。30分食べ続けて、消化の ために一旦休憩モードに入った。20分の休憩後、再びサケに向かうが、食いっ ぷりは悪くなった。タイミングを見計らっていたカラスが再び接近し、食い散 らかした肉片を拾っておこぼれを頂戴した。満腹になったオジロワシは、そん なカラスを構うことはしなくなった。同じシーンのデジスコ写真*。 餌で胸を膨らませ満腹になったオジロワシは、まだ半分残っている獲物から離 れた。丁度1時間の食事時間であった。次に見せた行動が興味深い。雪の上に 突き出た枝を口の中に入れたのである。これは人間の「爪楊枝」と同じ行動で はないか。2度・3度と枝を口にする行動を観察しながら、そんなことを思っ た。やがて下流の常駐場所へ向かって飛び去った。 お昼を挟んで2時間のオジロワシの捕食シーンの観察を終え、ようやく自分の 昼飯を近くの食堂で済ませる。その後、カラスも寄らなくなった捕食現場の河 原におりて食べた獲物をチェック。足はなく、ヒレのついた魚であることが判 明。前半分は無くなっていたが、腐敗した体表からは識別は不能。コイ並みの 大きな魚であることは分かった。別に転がっていた頭部の骨を調べ、顎に鋭い 歯が並んでいることを確認。この段階でサケであることが明らかとなった。 午前の雪はすっかり上がり、天候が回復した。常駐場所で寛ぐオジロワシをチ ェック。もう一度デジスコ撮影*。もう1枚*。ターゲットとの間の空気の状況 がよければ古いデジカメでのデジスコでもそれなりに撮れる。 円山川下流域を巡回しミサゴにレンズを向ける。ミサゴは魚食専門のタカであ るが活け魚しか食わない。オジロワシは魚中心の雑食性だが、ミサゴと違い死 肉も好んで食べる水辺のスカベンジャーである。オジロワシが中流域でサケの 死骸を川から引き上げて食べたことで、サケの溯上が現実感を持って納得され た。自然界の生きものは、人間にいろんなことを教えてくれるから面白い。 ※1月23日ぼたん雪のオジロワシを見たのが私の終認となった。 【撮影データ】 12/Jan/12 豊岡市 D90+VR300F2.8,*TSN-824M+E5000 |