昼前になってから六方田んぼに出る。電柱にノスリ成鳥が1羽。少し南の電線 にはチョウゲンボウ♀タイプがいた。同じ場所で度々見かけるようになったか ら、縄張りを張ったのだろう。 寄ってみると、どうも普段の様子とは違う。地上に下りては、キィキィと鋭く 鳴く。トビも何かを察して集まってきた。フワフワと田んぼに飛んだチョウゲ ンボウを目を追うと、翼を全開にして何かに襲い掛かろうとしているのだった。 そして相手が同じチョウゲンボウだと気づいて驚いた。襲い掛かっている方は 幼鳥で、やられているのは成鳥メスのようだ。相手を逆さにして押さえ込むが、 下のメスは振りほどいて草むらに逃げ込み、再び揉み合いとなる。 争いは農道の上までもつれ込み、やられ放題のメスは再び畦の草むらに逃れた。 幼鳥はホバリングで隠れたメスを探し当て、メスを組み伏せた。上の幼鳥は下 のメスの足をしっかり握り、攻撃を封じている。 やがて争いは沈静化し、幼鳥は水路沿いで一休みしてから、いつものように バッタ食いを繰返すようになった。寄り付いたトビもいつの間にかいなくなっ ていた。 襲われたメスは地上でじっと動かない。その上をバッタを掴んだ幼鳥が低く飛 んだが、二羽の争いは再び起こる気配がなかった。その後の観察を仲間に任せ て現場を離れたが、ほどなく携帯に連絡が入った。伏せていたメスは丁寧に羽 繕いをしたあと、復活して飛び去ったという。やれやれと思った。 最初は共食いだと思った。チョウゲンボウがチョウゲンボウを襲って食べよう としている。緊張した。しかし、事態を見守っていると、致命的な攻撃を仕掛 けているわけではなく、幼鳥が自分の縄張りに入ってきたメスを「痛い目にあ わせている」だけだと思うようになった。 しかし、記事を書きながら考えが変わった。この二羽は親子なのではないか。 やられっぱなしに見えた成鳥メスは、実は我が子に狩の訓練を施していたので はないか。今の季節はバッタを食べていたら飢えることはない。しかし厳しい 冬を乗り切るためには、鳥を襲わないと生きてゆけない。幼い我が子に身を呈 して狩を教えていた母親の姿を、私は目撃していたのではないか。そんな風に 思えてきた。いずれにしても、初めて見る壮絶なシーンに出会った。 【撮影データ】 25/Oct/09 六方田んぼ D90+VR300F2.8x1.4 |