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タジプリ、矢田川を堪能す


 佐津の交差点の信号待ちで、アクアのインベーダーを縦積みしたTakaoさん
 の車が、右から通り過ぎるのを目撃した。香住の海岸道路で追い付いて、我
 々に気付いた彼がリアウィンドウ越しに軽く手を上げた。途中のマーケット
 で買い出しを済ませ、ゴールポイントに向う。
 
 先ほどのマーケットでも見掛けたが、対岸には別のリバーツーリンググルー
 プが同じように集まっている。川下りをしていて、同じ川で他のグループと
 一緒になるのは初めてのことだった。むこうは結構な人数が居て、どこのグ
 ループなのかは察しがついた。この季節の矢田川は、彼らのホームゲレンデ
 となっていることも知っていた。今日は川の上で再び会うことになるだろう。
 
 さて、本日のタジプリ(注:タジマ・プリヨン軍団)には新しいゲストが参
 加している。普段はファルト乗りの萬屋正右衛門さんが、Tスラロームで初
 めての矢田川に挑むのだ。Koh!さんのトーネード、Takaoさんのインベーダ・
 シューレ、私のサイクロンを合わせ、タジプリの名に恥じないラインナップ
 で、これから矢田川を下ろうとしているのだった。
 
 萬屋さんの車を河原に残し、身支度を済ませた4人は2台の車で上流に向っ
 た。いつもの出艇地よりさらに上流から漕ぎ出すことに決め、この川で育っ
 た私がスタートポイントの選定にあたった。前に車でこの道を通ったとき、
 幾つかのポイントを押さえていたのだが、今日は発電所がすぐ上流に見える
 山田口の河原から出ることにした。橋を渡り、河川工事用の道から右岸河原
 に車を入れる。
スタートは山田口橋上流右岸
スタートは山田口橋上流右岸
提供写真Koh!氏
*Cyclone-たじまもり, Invader-Takao氏
 私も久しぶりのサイクロン。Koh!さんのトーネードが川に浮かぶのを見るの  も久しぶり。Takaoさんも昨年4月の出石川以来のインベーダだという。こ  れまた何年ぶりかのポリ艇と言うTスラの萬屋さん。それぞれが、自分自身  のパドリング感覚をゆっくり呼び戻すかのように、緩やかな流れの中で漕ぎ  を確かめる。やがて最初の緩いラピッドに乗り、瀞場で寄り合う頃には、各  自のパドリング感覚も蘇ってきたようだった。    緩やかな流れに乗りながら快調に漕ぐ。左岸を見上げれば、見慣れぬ漂流物  にキョトンとした様子の牛が、こちらをじっと見ながら尻尾を回していた。  少しパワーのある短い瀬が、正面の岩にぶつかって左の淵へと続く場所を私  が最初に下りた。ボイルが複雑な流れを作っていて、嫌らしい雰囲気だ。  Takaoさんが続いて、瀬から左にうまく抜けてきた。と思った矢先、ボイルの  エッジに引っかけられて右に沈して脱。Koh!さんのトーネードが、まったく  安定した動きで漕ぎ下り、レスキューベルトで救援にあたった。先に左岸に  上陸して待機していた私と、照れ笑いのTakaoさんで水出しを行う。萬屋さん  のTスラは難なく通過し、残りの3人を少しだけガッカリさせた。    本来の目的のために、腰に締めたレスキューベルトが初めて役に立ったと、  Koh!さんが納得するように言った。防水パックに入れたデジカメで、粗沈の  様子を撮れなかったことを残念がりながら、koh!さんが笑ってこう語った。  「ジャーナリズムとレスキューの葛藤があったけど、レスキューが勝ったね」  笑って応えるTakaoさんも、思わぬ粗沈には悔しさを隠し切れない様子だっ  た。今回のツーリングでは、これが最初で最後の思い出の沈となった。
牛に見送られて瀬を下る
牛に見送られて瀬を下る
Takao氏の粗沈現場にて
Takao氏の粗沈現場にて
 境の堰堤を越えて香住町に入ると川幅も広がる。道路から離れた八原の流域  は長いザラ瀬を経て、大きな瀞場へと続く。左岸の古い護岸ブロック前では、  私の幼い頃に、叔父に連れられてここにウナギ取りのモンドリを仕掛けに来  たことなどを、Koh!さんに話して聞かせた。    昔は吊り橋だった藤の橋をくぐり、本コース二つめの堰堤を越える。堰堤下  の白い落ち込みの中から、若鮎が何度もジャンプするのが見えた。鮎釣りの  シーズンも近い。中野の瀞場は、「アセブ」という固有名詞で呼ばれていた  記憶がある。サギのコロニーがあって、ギャッギャッと鳥がざわめき、魚取  り以外では人が近寄らない蒼く深淵な瀞場は、私の少年時代からずっと、神  聖な場所としての存在感があった。その淵に漕ぎ入れば、目の前の枝からヤ  マセミが下流に向って一直線に飛び、大きな鯉が水面を揺らして逃げて行っ  た。当時のまま変わらない川の景色があった。    左岸に見つけた小さな砂場でランチタイムにした。Koh!さんを除く3人はい  つものラーメンだったが、今日のKoh!さんはグルメを意識したメニュー。  メインディッシュは素麺を茹で、出石蕎麦の出汁で頂く。おかずは、漁港の  町香住らしく、キスの串焼き。河原の石を積んで小さなかまどを作り、焚き  火でキスをあぶる。これが素晴らしく美味しいのだった。いやぁ、満足。  素麺とキスの分け前にあずかりつつ、今後のタジプリの方向性に新たな確信  を持った。そうだ。これからは、「グルメ de タジプリ」なのだ。
写真提供Koh!氏
*二人のシグナルパドルはよく目立つ
Koh!氏のグルメなランチ
Koh!氏のグルメなランチ
 長い休憩後にフネを出せば、瀞場の終わりは小さな堰になっていた。左岸に  は、例のカヌークラブとおぼしきカヌーラックを積んだ車が3台置かれてい  た。連中はここからスタートしたのか。実のところ、この先ゴールまでは、  瀬と呼べるような場所は無いのであるが、初心者を連れてのツーリングには  もってこいのコースではあった。    過去2回のこの川でのスタート地点であった弁天山。その周辺は、新たな河  川工事が行なわれており、過去の面影はほとんど無くなろうとしていた。  小原から大野橋をくぐり、浅井のザラ瀬を行く。大谷橋のたもとの静水で、  数人のグループが何やら賑やかにやっている。男性がカヤックを大きく傾け、  女性がキャーキャー声を張り上げている。ロールの練習でもしているのか?   川の上で出会った初めてのカヌーグループだったが、声をかける気にもなれ  ずに無言で通過した。    最後の淵を過ぎれば橋の向こうにゴールがあり、別グループの一団が右岸に  向かって漕ぎ下って行くのが見えた。最後のパドリングを惜しむように、我  々も左岸にゆっくりと近づいて行った。下り坂の空はすっかり薄雲に覆われ  ていた。ウグイがバシャンと水音を立て、雲を映した川面が丸く揺れた。
提供写真Koh!氏
*安定した漕ぎのTスラ-萬屋氏
提供写真Koh!氏
*三谷のゴール地点
注:*印の写真は、Koh!さんのOLYMPUS C-420L+防水パックによる撮影
 【 行動日 】99年5月23日(日)  【 河 川 】矢田川  【 流 域 】兵庫県北部  【 コース 】山田口(村岡町)〜 三谷(香住町)  【漕行距離】約10Km  【 天 候 】晴のち曇り  【メンバー】Koh! on Tornado, 萬屋正右衛門 on T-Slalom,        Takao on Invader, たじまもり on Cyclone  【 タイム 】山田口11:27…境堰堤12:04…藤堰堤12:48…中野の瀞場13:02-        14:12…大野橋14:51…三谷15:36  【 マップ 】5万図「香住」参照  【 川情報 】・境、藤の橋下、中野の瀞場下、計3個所の堰堤越え        ・発電所放水による水量の変化に注意(毎日定期的)        ・水量が増えるとヤバそうなクランクが幾つか点在        ・大谷橋下流左岸のテトラに注意