腹いっぱいのフクロムシを

フクロムシ
モクズガニに寄生するフクロムシ(撮影:29/Mar/00)

  豊岡市コウノトリ市民研究所の円山川の生き物調査をしていて、モクズガニの
フクロムシという寄生虫を発見してしまった。
 フクロムシは、カニ等の体の中に入り込む寄生虫で。カニのおなかからふくろ
状のものを出すのでフクロムシと呼ばれている。外見からはちょっと考えにくい
が甲殻類でフジツボにとても近い仲間だ。

  海に住むフクロムシは沢山知られているのだが、淡水でも生活できるフクロム
シは非常に珍しくモクズガニに寄生するもの1種のみが報告されている。それも
戦前の日本の論文で報告がみられる程度で、近年その存在自体が確認されていな
かった。進化の鍵を握る重要な種として、フクロムシの世界的権威であるコペン
ハーゲン大学のルツツェン博士と熊本県立大学の高橋徹博士は、7年間も日本中
の川を探したが見つけることが出来なかった。研究者にとっては幻の生き物であっ
たのだ。

 秋になると円山川でカニ漁をし、モクズガニを美味しく食べている私であるが、
フンドシに付いているこの物体が寄生虫であることなど知る由もなかった。たじ
まもりさんにモクズガニのホームページを教えてもらい、インターネットで高橋
博士に照会したところ、ルツツェン博士もびっくりの発見になってしまった。

 写真は、我が家で飼育しているフクロムシ付きのモクズガニの一匹。腹いっぱ
いのフクロムシを抱えカニも苦しそうである。通常のフクロムシはあそこまで肥
大はしていない。既にフクロムシは死んでいたのかもしれない。撮影の明くる日、
宿主のモクズガニも死んでしまった。仕方なく焼酎漬けにして保存している。

  現在、高橋博士は渡欧中で、デンマークでルツツェン博士と詳細な調査計画を
練っているところだ。いよいよ今年はコウノトリ市民研究所・熊本県立大学・コ
ペンハーゲン大学の国際共同調査が実施される。

 しかし、そんな珍しい生き物であったとは・・・。やはり但馬はすごいところ
だ。円山川はすごい。高橋博士に『フクロムシの味はいかに?』と問われて、
「美味しかったです。」としか答えられなかったぞ!。ルツツェン博士が豊岡に
来たらフクロムシを浸けた焼酎を飲ませたいと考えている。


                写真・文:コウノトリ市民研究所 稲葉一明

本欄の写真・文は、コウノトリ市民研究所会員の稲葉一明さんからの投稿です。
実は、この写真を見せられた時、私は大いに興奮しまして^^;、私のデジカメで
撮影させてもらってからここに掲載しようと思っていたのでした。残念なこと
に、稲葉さんが撮影された翌朝には、このモクズガニは死んでしまったとのこ
として、目的は達成されませんでした。

しからば、稲葉さん御自身に写真と文を提供してもらおうとお願いしたところ、
こころよく引き受けて頂きました。ありがとうございます。

フクロムシという、超レアな生き物、研究者が世界中を探し回っても見つから
ないという動物が、円山川水系に残っていたという事実に、我々仲間の間でも
驚きの声が上がっています。豊岡盆地の中には、フクロムシのような、人知れ
ず生き続けている貴重な生き物たちが、まだ居るかもしれません。コウノトリ
市民研究所の活動を通して、そんな彼らにも出会えるかも知れませんね。

なお、モクズガニの生態に関しては小林博士のモクズガニ生態図鑑に詳しいで
す。同サイトの「寄生・着生生物」ページに、フクロムシの生態についての生
物学的な記述があります。興味のある方は、あわせてご覧下さい。

(たじまもり記)