六方田んぼではソデグロヅ幼鳥1羽が越冬しているが、今では世界のナベヅルの 9割近くが、世界のマナヅルの約半数が越冬飛来することで知られる、鹿児島県 出水市を訪ねる機会があった。出水市のツル渡来地は、国の特別天然記念物にも 指定されている。 訪問初日の午後、ツル博物館周辺でしばらく探鳥。そばを流れる米ノ津川では、 ヨシガモが目についた。護岸からカワセミが飛んで、瀬の上空でホバリング。 マガモ、ヒドリガモも多く見かけ、バンとオオバンも普通にいた。 ミヤマガラスの数が非常に多いのも当地の特質のようで、ヨシ原ではシロハラや アオジを沢山見かけた。また、博物館近くの農地ではマナヅルの一家族4羽が降 りており、50羽近くのナベヅルの群れも別の農地から飛び立った。 翌日は夜明け前よりツル観察開始。東の稜線が赤く染まると、保護区でねぐらを とっていた万羽鶴が一斉にねぐら立ちする。無数のツルの群れが帯状に揺れ動き ながら、それぞれの餌場へと向かってゆく様は圧巻である。保護区に残っている ツルの多くがナベヅルで、マナヅルも家族単位で集って観察される。 ナベヅルの大きな群れを、展望所の屋上から観察する。1月の終わりからマナヅ ルの北帰行が始まっており、晴天の今日も多くのマナヅルが旅立つことが予想さ れた。 ツルの北帰行の観察ポイントとして有名な行人岳山頂に向かった。10時頃の到 着で、すでに山頂は沢山の人が集っていた。渡来地を飛び立ったマナヅルの群れ が、行人岳の西の眼下遠くを飛んだ。東の眼下近くを飛ぶのを、多くのカメラマ ンが狙っているのだが、なかなかその機会が訪れない。山頂の真上を、たくさん のマナヅルが北に向かって飛び去った。当日中に朝鮮半島まで移動するという。 出水市の干拓地に戻り、日中のツルの観察を続ける。東干拓と呼ばれるエリアに カナダヅルとクロヅルのグループを見つけた。その他に、ナベヅルとクロヅルの ハイブリッドである、俗称ナベクロヅルも混じっているらしいが、ツル観察初心 者には識別が出来なかった。また、年によっては、ソデグロヅル、アネハヅル、 タンチョウの数羽単位の飛来もあるそうだ。 日中、ツルはそれぞれの餌場で過ごしている。多く集っている保護区域の中から 出て行く車は、検問所で鳥インフル防疫のための消毒を受けなければならない。 出水市の主要産業である養鶏を守るため、特に注意が払われている様子だ。 ヘラサギ幼鳥とニュウナイスズメ観察できた。その他、探せばいろいろと鳥が見 られる地域らしいが、今回はツルに集中することに時間を費やした。 太陽が沈み、西の稜線が残照で縁取られる時間になって、ツルの群れが次々にね ぐらに戻ってきた。午後6時半ごろにねぐら入りのピークを迎え、たくさんの群 れが重なり合うように合流し、鳴き声と共にねぐらの暗闇へと降りて行った。 毎日毎日、朝のねぐら立ちからねぐら入りまで、ツルたちの一日が繰り返されて いる。そんな冬の日常も、ツルの旅立ちと共に、次第にフェードアウトしてゆく。 ツルの里からやがてツルがいなくなって、人々の春がやってくるのだ。 【撮影データ】 13-14/Feb/15 鹿児島県出水市 D7000+VR300F2.8,VR18-200 |