早朝6時過ぎには、斐伊川河口の堤防の上にいた。さすがにこの時間帯から鳥見 をする酔狂な人は他におらず、一人で夜明けを待つ。宍道湖を隔てた山の端が次 第に赤らむのにつれ、明けの金星の輝きがゆっくり色褪せてゆく。 7時17分に太陽が顔を出すと、目覚めの鳥たちの動きがゆっくり連鎖して広が ってゆく。朝ぼらけの大山をシルエットで遠望。コハクチョウの第一陣が、河口 のねぐらから餌場へと飛び立つ。朝日に染まるねぐらのコハクチョウ。そのはる か向こう、宍道湖の沖合から、マガンの群れが横一列で近づいてくる。 次から次へマガンの群れが斐伊川河口に集まってくる。大きな群れが黒い雲のよ うにうねりながら近づいてくる様は圧巻だ。河口から少し遡ったあたりで群れは 左旋回し、右岸の田んぼの上に結集し始める。マガンの編隊飛行。 やがてグループごとに次々と着陸して、地上の群れが膨張してゆく。着陸シーン。 地上の群れが最大になった頃、何かのきっかけがあったのだろう、降りていたマ ガンが一斉に飛び立った。トップ写真は、このシーンのトリミング。 ひとしきり旋回を繰り返すと、群れ全体が落ち着きを取り戻し、再び地上へと降 りてきて、餌を食べ始めた。ニワトリにも似た「コココ」というマガンの声が重 なりあい、あたり一面実に賑やかである。 朝食のお腹が膨らんだ頃、群れは次々と左岸の田んぼへと移動し始める。その後 は、いくつか大きな群れに分かれて左岸の餌場で日中過ごしていた。 そんなマガンの群れの一つに近づいて、一羽一羽を双眼鏡でチェックしてゆく。 何度も何度も繰り返して、ようやく見つけたカリガネ1羽。何百羽の群れの中か らこの1羽を特定する作業は骨が折れる。首を伸ばしたカリガネ。すぐに警戒を 解くと、下を向いて餌取りに没頭する。一旦レンズを下ろしたが最後、マガンの 中に紛れたカリガネを、再び見つけ出すことはできなかった。 河口のコハクチョウの多くは、日中も同じ場所で寛いでいた。コハクチョウの群 れの少し上流側には、ヒシクイの群れがかたまっていた。亜種ヒシクイと亜種オ オヒシクイの混群で、移動時に豊岡盆地に立ち寄った連中も混じっているのだろ うと思う。コハクチョウ同様、多くのヒシクイは餌場に向かうことなく、一日を 川の上で過ごしていた。ヒシクイの着水シーン。 斐伊川河口の田んぼには、思ったほどのコハクチョウが入らない。左岸の一箇所 でコハクチョウとマガンが一緒にいる田んぼを観察したぐらい。それぞれの餌場 が重ならないよう、棲み分けが行なわれているのかもしれない。 斐伊川河口を飛んだ2羽のコハクチョウにレンズを向けると、後ろを飛んでいる のはアメリカコハクチョウの特徴が出ている。純粋か交雑かは分からないけど、 くちばしの色が、根元の一部を除き黒い。体も少し小さめに見える。 水路の水門付近にはコブコハクチョウが2羽いた。飼育種の野生化個体か? 猛禽類は、めぼしいものに出会えなかった。ノスリが常駐していたのと、朝方に チュウヒ、夕方にハイタカを見た程度。 田んぼ巡回中には、タゲリとオカヨシガモにレンズを向けた。 斐伊川河口のマガン観察は、今回で3度目。私にとっての3度目のシマネ・ショ ウは、気ままな一人旅となった。1回目は初心者マークの息子に運転を任せて、 助手席からマガンの写真を撮った。2回目は妻と一緒にマガンを見た。そんなこ とを思い出しながらの、季節外れの陽気に包まれた、斐伊川河口での一日だった。 この春から、出雲の息子一家は新しい土地へと生活の場を移す。そんな事情もあ っての、今回の鳥見旅。さて、次にここに来るのは、いつのことだろう。 【撮影データ】31/Jan/14 斐伊川河口 D7000+VR300F2.8,VR18-200 |