虫屋のUさんから、ついにポイントを見つけたので、一緒に観察しないかと誘 いがあった。私にとっては「幻の」、イッシキキモンカミキリ。3年前に亡く なった父から、このカミキリの伝説を時々聞かされた。今でも珍しい虫に違い ないが、昭和40年代の但馬ではとんでもない珍品として扱われていた。 父の教え子で、同じ生物教師の道を歩んだUさんも、高校の生物部時代に父か らイッシキキモン伝説を聞かされた一人だ。長年追い求めたこのカミキリによ うやく巡り合い、今回確実な繁殖地を探し当てた。天国からの父からのプレゼ ントなのかも知れない。そんな思い出話をしながら、Uさんと、もう一人のお っさん生物部員I氏と3人で、今回の調査観察に臨んだ。 繁殖場所はまったく意外なところにあった。車が頻繁に通り過ぎるアスファル トの道端。そこに生えるクワの葉裏に、最初のイッシキキモンカミキリをI氏 が見つけた。思いのほか小さなカミキリだった。黒い上面に黄色の紋が鮮やか。 1頭見つけると、目が慣れて次々に相手が見えてくる。 葉裏に止るので、逆光撮影を強いられる。ストロボも動員しながら撮影を進め る。横から見ると、下面が黄色であることが分かる。葉表に止ることは稀。 Uさんの説明によればイッシキキモンカミキリはクワの葉の葉脈を食べるとの こと。クワの葉にこのような食痕を見つけることが、イッシキキモン探しのポ イント。観察中、足元のミヤマアカネをチェック。 交尾シーンも観察できた。下のメスは上のオスより一回り大きいことが分かる。 イッシキキモンカミキリの繁殖には、成虫の食草であるクワの木があることは もちろん、幼虫の食草となるヌルデがクワと混生していることが必要条件とな っている。 Uさんの捕虫網で1頭を捕獲。手のひらに載せてこのカミキリの大きさが分か る写真を残す。この個体はオス。クワに葉上でリリースするときに記念撮影。 車が通過するたびに、その音か振動に反応して飛び立つ。その飛び姿はハチの ようであり、Uさんはイッシキキモンカミキリはハチに擬態しているのかもし れないとコメント。クワの木の樹冠あたりを何頭も飛び回る様子が見られたが、 10時も過ぎると活動のピークが一気に落ちて姿が見えなくなってしまった。 イッシキキモンカミキリが「幻」でなくなった7月29日、夜には我が家の初 孫誕生の嬉しいニュースが届き、記念すべき一日となった。 【撮影データ】 29/Jul/12 D90+VR300F2.8,60mmMacro,SP90Macro |