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海の出来事

シロエリオオハム
シロエリオオハム (アビ目アビ科/Pacific Diver)
冬型気圧配置の海は大時化。こんなときは、港湾に海鳥が避難してくる。竹野
港を見回ると、岩礁にはウミネコとセグロカモメが寄り集まっており、港内に
は1羽のシロエリオオハム*が入っているのを見つけた。

喉の細いリングが出ていれば識別しやすいが、この個体は微妙である。オオハ
ムかもしれないが、過去の事例と全体の雰囲気からシロエリとした。海面に体
を伸ばして羽ばたいたとき、腹が黒いことに気づいた。本来は真っ白である。
左の脇腹は白いまま。この写真が分かりやすいが、このシロエリオオハムは右
脇腹を重油で汚染されていたのである。

近海のどこかで重油にまみれてしまったようだ。かつてナホトカ号の重油流出
事故のときは、このあたりの海岸は酷い状況になった。ニュースになる大きな
事故でなくても、海洋汚染は海鳥の生命を常に脅かしていることを、シロエリ
オオハムは教えてくれる。浮力が落ちているのか、羽ばたきや羽繕いを何度も
繰返しながら、自分の身に起こった災いを洗い落とそうとしているかのように
見えた。

翌日もこの鳥が気がかりで竹野港まで出かけた。天気は回復し、外海の波も落
ちていた。港内にシロエリオオハムの姿は見えず、外海のマリーナをチェック
する。そこには別のシロエリオオハム(これもオオハムかも知れない)が浮か
んでおり、何度も羽ばたきを繰り返しながらこちらにどんどん近づいてきた。

岸壁の下までやってきたとき、このシロエリオオハムも深刻なトラブルに見舞
われていたことに気づいた。体にテグスが絡んでいるのである。繰り返し行っ
ている羽ばたきや羽づくろいに見えたのは、絡んだテグスをなんとか外そうと
する行動だった。そして、私に外してくれと懇願するかのように、車の真下ま
で寄ってきたのである。普段は見えない口中と足の構造も記録。

最初口に絡んでいたテグスは、シロエリの動きによって口からは外れた。外れ
たテグスは今度は首に巻きつく首と翼がテグスで拘束され苦しそうにもがく。
今度は右翼に絡みついて翼の動きを阻害した。人が手で解いてやればすぐ楽に
なれるのに、目の前でただ見ているだけのもどかしさを感じた。

やがて、採餌するには支障のない程度にテグスの拘束が解け、盛んに潜水を行
うようになった。小魚を捕獲した場面も見たから、直近の生命は維持できそう
な感じである。体を動かすうち事態が悪化する可能性が大きいが、自然にテグ
スが体から外れて脱落するよう願うばかりである。

テグスの絡んだシロエリオオハムがいたのはこんな場所*。防波堤では小春日和
に誘われた釣り人が竿を出していた。テグスの始末だけはちゃんとして欲しい。
ここにいる小さな被害者が、レンズを通して私に抗議し続けているのだ。

係留された船の周りを泳ぐ。めったに見えない、シロエリオオハムのつぶらな
瞳は、暗い赤色をしている。目の色も出たシロエリオオハム図鑑写真。
奇しくも、2日続きに同じ場所でシロエリオオハムの人由来の災難を目の当た
りにし、いろいろと考えさせられた。

さて、日曜のお昼は竹野スノーケルセンターのスモーク・クッキングの御相伴
にあずかった。親子でワイワイ・ガヤガヤの燻製作りの真っ最中にお邪魔。
手製のスモーカー**の窓にセンター前の磯が映る。こちら**はベーシックなド
ラム缶スモーカー。サクラのチップで燻されるのは鶏肉、猪肉、チーズ、タラ
コ、茹で卵、練物、沢庵などなど。室内で出来立ての燻製**をみんなで美味し
く頂いた。

センター長の締めの挨拶:
「家庭から無くなりつつある炎や煙を再認識し、ぜひ自分たちで美味しい燻製
 を作ってみてクンセイ」

この但馬弁親爺ギャグは、子どもたちにはちっとも受けなかったが、確かに、
センター長の言うとおり、我が家でもオール電化に変わって室内から火が無く
なった。原始の魂を燃やすもの、「火」を、忘れてはいけないと改めて思うの
であった。

【撮影データ】 06-07/Feb/10 竹野町 D90+VR300F2.8(x1.4),*VR18-200,
                   **SIGMA10mmFE