「なんか変なモンがおるんだけど」と、鳥仲間のMr.Y氏より携帯が鳴った。 現場に急行すれば、目の前の畝にカモメっぽい海鳥がうずくまっていた。農道 からは頭しかよく観察できない。オオセグロカモメ? オオミズナギドリ?と 二人でしばらく悩む。 Mr.Y氏の観察報告によると、カラスに囲まれていじめられていたようだ。 もう駄目かもしれないなあと、鳥に近寄ってゆく。全然逃げない。明らかにカ モメではなく、この段階でオオミズナギドリとほぼ確信。とりあえず彼を捕ま えることにし、Mr.Y氏が抱き上げた。全く油断していたところを、くちば しで指をひどく噛まれたMr.Y氏。指にくちばしでぶら下がった状態から、 翼をひるがえして空に舞いあがった。 「なーんだ飛べるがな」と、彼の見事な飛翔を追った。翼の長さは半端ではな い。ブーメランのように斜め旋回しながら飛ぶ彼を、待ち構えていたカラスや トビが集団で襲った。あえなく再び田んぼに着地。 このまま見殺しにするわけにもゆかず、とにかく再捕獲して対策を練ることに。 再びMr.Y氏が彼を捕獲。図鑑と照らし合わせながら、オオミズナギドリで あることを確定した。鳥に詳しい獣医さんに見てもらうことになり、袋に入れ て搬送。怪我もなく、放鳥しても大丈夫という所見をもらってひと安心。 獣医さんのアドバイスに従い、夕刻の日和山御待橋の断崖で彼を放鳥した。し かし弱っていたのは確かなようで、その時は飛ぶことなく崖縁の草薮に身を潜 めるところまで見届けて帰ってきた。翌朝、気になって放鳥現場に行ってみた が既に彼の姿はなく、無事海に戻ったものと思うことにした。 さてオオミズナギドリだが、繁殖期以外は海上で生活する海鳥で、冬季は南海 上に渡り繁殖期になると日本近海に飛来する。このあたりでは若狭湾の冠島が オオミズナギドリの繁殖地として有名であり、保護した個体もそこに向かう途 上でのトラブルであろう。 オオミズナギドリは一旦平地に降り立つと二度と飛び上がれない。断崖や斜面 を利用して長い翼に風を受けることで初めて舞い上がれるのである。渡りの時 期、海辺近くの陸上でこのような不幸な着陸をしてしまったオオミズナギドリ のニュースが届く。今回、私も初めての遭遇であったが、同じトラブルに対し ての対処方法を知ることができた。 海辺の断崖や屋上のような高い場所からの放鳥が無理な場合、浜辺から海に戻 してやればよいこともネットを調べて分かった。海上からだと、彼らは風をう まく捉えて舞いあがれるのだ。 ところでトップ写真だが、Mr.Y氏が私の隣で同じシーンを撮影したものが これ。但馬の野生動物写真の第一人者であるMr.Y氏のショットは「さすが」 と思わせる。ターゲットへのアングル、背景にさりげなく来日岳を配置すると ころなど、実に憎い演出だ。彼と一緒にシャッターを切ったのはこれが初めて だが、ベテランカメラマンから学ぶことの多い今回の出来事でもあった。 ちなみに、ミズナギドリという命名だが、「なぎ」というのは「なぎ倒す」の 「なぎ(薙ぎ)」、薙刀(なぎなた)の「なぎ」である。薙刀のように水をカッ トしながら飛ぶ様子が命名の由来。英名はShearwater。Shearはまさに「薙ぐ」 の意味。刀でスパっと切り裂くという意味だ。水を切り裂くオオミズナギドリ の翼長は1mを越える。 【撮影データ】 22/Mar/03 六方田んぼ, COOLPIX5000(+TSN-824M) |