カツラの宇宙が宿る谷 但馬・東床尾山 | |
豊岡盆地の南東に壁となって立ちはだかる床尾(とこのお)連山。標高1000m に満たない低い山ながら、堂々たる風格を持った山です。いつも町から見上げて いるこの山に、初めて登ってきました。 【目的地】東床尾山(ヒガシトコノオサン)(839m) 【山 域】但馬(兵庫県北部) 【登山日】1994年9月10日(土) 【天 候】晴れ 【コース】糸井の大カツラ〜東床尾山(ピストン) 【マップ】1:50,000 出石 【同行者】MIDORIN-P, KAORIN(小3), YOU(小1), GEN(幼) 【タイム】大カツラ12:25 〜 東床尾新道分岐13:05 〜 東床尾山13:35-14:00 〜 大カツラ15:05 *アプローチ いくつかの登山ルートがあるが、今回は和田山町の糸井渓谷より到る道を選ぶ。 国道9号線の円山川右岸バイパス(通称右岸道路)を糸井橋交差点で東に入る。 途中で左折すると、峠を越えて蕎麦処出石(いずし)に抜ける。糸井渓谷へはひ たすら真っ直ぐ車を走らせる。やがて道は最後の集落を過ぎ、林道となって渓谷 沿いに上がって行く。「糸井の大カツラ」を知らせる看板が現れ、左に折れてほ どなく目的地に到着する。糸井橋交差点より約20分の行程である。 *糸井の大カツラ 今回の山歩きの半分は、この大木に会うのが目的である。車止めの垣の傍に案内 板が立っている。説明によれば、高さ35m、枝張り東西30m、南北31mと いう「ひこばえ」のカツラである。昭和26年6月9日、国の天然記念物に制定 されているというから歴史のある木だ。元の主幹は朽ちて大小約80本の「ひこ ばえ」がその周囲から育ち、主幹を守るようなかたちで空に伸びている。リング 状にカツラの木が並んで生えているのだ。そのリングの中に入って上を見上げる と、そこはまさに一つの森だ。周りの木に守られた宇宙だ。カツラの木が永い時 間をかけて作った自分だけの宇宙。そんな気にさせてくれる。 朽ちた木のウロにスズメバチが巣をかけているのだろう。カツラの木の中に入る と足元の穴からハチが脅しに飛んでくる。今はこのスズメバチがこの森の番人な のだろう。人が近づくことを拒絶しているようだ。 *消えたムカシトンボ かつてこの谷は、ムカシトンボの棲息地として知られていた。ムカシトンボとは その名の通り、進化の途絶えた原始の香りを持ったトンボで、生きる化石とも言 われている。地元の中学生たちの研究対象にもなっており、但馬地方でも注目の 場所であった。ところが台風による被害の復旧で、谷を埋める2段構えの堰堤が 出来て以来、あたりの環境は一変したのである。大カツラの横の沢もコンクリー トの溝、その上に覆い被さるセメントの壁。この工事によってムカシトンボはす みかをすっかり失ってしまった。カツラの宇宙の中をムカシトンボが悠々と翔ぶ 姿は、もう見られなくなった。 *東床尾山へ カツラの木の前でまず腹ごしらえ。その間、単独の男性と一組のパーティが登っ て行った。2つの堰堤を過ぎると渓谷の爽やかさが戻ってくる。道は沢沿いにず っと続く。良く手入れされたスギ林を巡りながら、ゆっくり高度を上げて行く。 沢の水はさすがに少ない。途中、100m単位で山頂までの距離が書いてあり励 みになる。ちなみに登山口から山頂までは1300mの表示である。 約40分で東床尾新道の標識に出くわす。しっかりした道が真っ直ぐ上がってい るが、標識に従って右に折れ尾根に取り付く。山頂までかなり急勾配の道が続く。 周りは雑木林といった風で、面白味には欠ける。イワカガミの葉が目立つ。分岐 から約30分、ススキの揺れる山頂に一気に躍り出る。 標高839mの山頂には一等三角点がある。まわりに遮るものはなく、展望は良 好である。当日は霞んで遠くまでは見渡せなかった。山頂は蝶の道になっている のであろうか。アゲハチョウをはじめ、たくさんの蝶が乱舞していた。 先に行かれた単独の男性が出発されるところで、これから西床尾山に向かい下山 するという。山渓の切り抜きをマップケースに入れておられた。山渓も随分マイ ナーな山まで紹介しているものだと感心する。 西床尾山にはログハウス状の建物、東床尾山との間の稜線上にも建物が見える。 下山は往路を引き返したので詳細は分からない。 *エピローグ 来た道を引き返し、1時間余りで大カツラの広場に戻ってくる。傾きかけた日差 しを受けながら、カツラの宇宙に秋の風が渡って行った。 94/09/13 ▲CATHY (PED02620)♪ |
天然記念物の糸井の大カツラ |