深き秋に染まる但馬森/阿瀬渓谷から蘇武岳
 冬の到来を告げる冷気とそぼ降る雨。凛とした空気が谷間全体に宿っている。息を  のむほどに艶やかな、赤や黄色が織りなす山肌。すべての汚れを洗い落として、今  最後の輝きを放っている。沢音が狭い谷間に響き、二人の靴音だけが静寂を切り裂  いて行く。濡れ落ち葉が重なって、いつもの山道は錦の絨毯を敷きつめたようだ。  時折現れる高さのある滝の白い飛沫。その白を背景に紅葉(もみじ)が一際美しい。  谷を離れて峠に向かう。サクサクと落ち葉を踏みしめる。谷を見下ろせば、空に続  いた低い雲が垂れ込めて、冬の妖精たちがそっと下りてくるようだ。  金山(きんざん)峠に着く。今は尾根道の入口に残されたお地蔵様だけが、かつて  この峠を多くの旅人が往来したことを教えてくれる。両側を林道に削られた蘇武岳  (そぶだけ)の尾根道を行く。余り踏まれていないが、しっかりした刈り跡を辿る。  カシワの大きな葉っぱが目立つ。この山を特徴付けるカラマツ林。黄金色の輝きを  放つ針葉樹の森は、かつてこの山の地中深く掘り出された金鉱の幻を見ているよう  な気持ちになる。金山と呼ばれた谷間を見下ろす、黄金のカラマツ林。いつの時代  からこの山を守り、人々の心を捉えててきたのだろう。  1074mの山頂は雲の中だった。吹きつける風が体温を急速に奪ってゆく。8月  の団体登山で家族全員で登った時の記念碑を見つける。我々家族のサインの隣に  「あきゆき」と、新しいサインが付け加えられた。あきゆきさんに、ここからの大  展望を見て貰えないのが残念だ。但馬(たじま)中央山脈と呼ばれる連山の中央に  蘇武岳は聳える。豊岡盆地から見上げる雄々しい姿は、少年植村直己の心を捉えて  離さなかった。彼が辿った同じ道筋を、今日はあきゆきさんと二人で踏みしめて来  た。ふるさと但馬を見渡す絶好の展望台。氷ノ山や扇ノ山といった県境の山並みや、  複雑に入り組みながら続く麓の里山、のびのびと広がる豊岡盆地の田園風景や、そ  の遙か彼方にぼんやり弧を描く日本海の水平線。ビュービューと通り過ぎる雲の飛  沫の中で、あきゆきさんの心の中に出来るかぎりの展望を描いてあげようと思った。  下山は金山峠まで林道を歩く。1時間の林道歩きは楽しいお喋り。時折言葉を忘れ  るほどに美しい木々が森を彩っている。雲の切れ目から、足元に放牧地の風景が見  え隠れしている。峠では、先程登った尾根道のお地蔵様にあきゆきさんが静かに手  を合わせる。私はカラマツ林に別れを告げ、再び谷に向かって行った。  深き秋に染まる但馬森(たじまもり)、初めて会う友を迎えて辿った素晴らしい山  行であった。但馬の森に初雪が舞い降りる日が、もうそこまで来ている。   【登山日】94年11月13日(日)   【目的地】蘇武岳(そぶだけ)1074m   【山 域】兵庫県北部・但馬中央山脈   【コース】日高町金谷より阿瀬渓谷を経て山頂(ピストン)   【天 候】小雨   【メンバー 】あきゆき、CATHY   【マップ】エアリアマップ59「氷ノ山」   【タイム】阿瀬渓谷入口8:45〜蘇武岳山頂11:45-12:05〜阿瀬渓谷入口14:25 P.S.   遅れて来た青年、いや中年です。(^^; FYAMAPオープンおめでとうござい   ます。って、今時ハズした発言…(^^ゞ   ちょっと書いて見たくなったもんですから、自己陶酔型超ローカルネタ第一弾を   引っ提げてお邪魔しました。展望部屋に全然そぐわない内容ですが、お許しを。   こんな話題でも喜んで頂けるのなら、また書かせてもらうかも知れません。                                                      ▲▲CATHY@たじまもり▲▲ ↑ページトップへ