一週間前、このコースで蘇武岳まで歩かれた丹波のたぬきさんから、阿瀬渓
谷でアカショウビンの声を聞いたというレポートが上がった。私にとって、
アカショウビンは30年来の幻の赤い鳥。声は聞けても、いまだにその姿を
見たことがない。
野鳥観察も、いよいよ山に入らないと鳥がいなくなった。山に入っても、繁っ
た葉陰に鳥を見つけることはなかなか難しい。重いスコープを担いで山道を
歩くのもつらい。しかしアカショウビンとなると話は別だ。万が一、赤い鳥
が目の前に現れたとして、スコープを持ってこなかったことを激しく後悔す
るに決まっている。アカショウビンと会えたら、そこで引き返そう。そう思
いながら阿瀬渓谷駐車場から歩き始めた
ヤマアジサイ |
ヤマボウシ |
朝早い山道を独りで歩くのはかなり不安である。脇でガザガサと物音がする
たびにビクっとするが、いつものようにオオルリやミソサザイが綺麗な声で
歌ってくれるのが慰めだ。
山道に沿ってヤマアジサイの青やヤマボウシの白が美しい。トチの原生林で
はクロツグミの声に聞き惚れる。どこで鳴いているのか、姿はさっぱり見え
ない。そろそろ3Kgを越えるスコープを乗せた三脚が、鬱陶しく思えてき
た。
チゴユリ |
ホウチャクソウ |
分校跡で一息入れたあと、4年ぶりに金山峠を目指す。肩に食い込む三脚を
左に右に担ぎ換えながら幾度か渓流をクロスする。登山道を覆う草むらは、
もうすっかり夏の様相。紅葉滝手前の渡渉地点で、クロツグミの姿を見た。
水浴びでもしていたのだろう。とんだ邪魔者の出現に、迷惑そうに渓流の奥
に姿を消した。
ここまで、もちろんアカショウビンの声がどこかでしないか、耳をそばだて
ながら歩いてきた。しかし一度もその声を聞くことは無かった。道は渓流を
離れスギ植林を辿る。林床にはチゴユリやホウチャクソウの花が目に付く。
金山峠の道標 |
氷ノ山、鉢伏山、瀞川山 |
久しぶりの金山峠。ゼリー飲料でエナジー補給しながら、林道を蘇武岳まで
のんびり歩くことに決める。カッコウの仲間に会えるかもしれない。赤い鳥
はまた帰り道の楽しみに。
村岡町輝山からの舗装林道が合流すると、展望が一気に開ける。今日は少し
ボンヤリしているが、氷ノ山、扇ノ山をはじめ、但馬の千メートル級の山々
が大きなパノラマとなって広がっている。林道には山菜採りの人が入ってい
る。何台かの車が土埃を立てて通りすぎてゆく。一台の車が私を追い越して
から止まり、展望台まで乗って行かないかと誘ってくれた。鳥を見ながら歩
くのが目的なので、丁重に辞退申し上げた。
見晴台のパノラマ案内板(クリックで拡大) |
展望台には立派な東屋と展望テラスがあり、パノラマ写真による景色の案内
板が立っていた。ここから山道に入り、20分弱で蘇武岳山頂に到着。途中、
レンゲツツジがオレンジ色の花を咲かせていたが、スコープの重さと空腹で
写真を撮る元気が無かった。
蘇武岳山頂 |
山頂の方位盤 |
単独の山頂、芝生の斜面に腰を下ろしてコンビニお握りでお昼にする。双眼
鏡で我が家方面を観察するが、もやっていてよく分からない。携帯電話から
妻たじまに無事を報告。あきゆき氏@低山徘徊派と萬屋氏@ジモティに山頂
携帯メールを入れる。
カッコウ、ホトトギスの声が聞えている。空を飛び交うのはコシアカツバメ
とイワツバメだ。山頂の木に止まって鳴いているのはウグイスとモズ。秋に
なると里に下りてくるモズも、この季節は山で暮らしている。小さな声でし
きりにぐぜっている。
一組のカップルが上がってきたところで下山開始。来た道をそのまま戻る。
午後からは湿度が高くなった。ムッとする空気を感じながらトボトボと林道
を戻る。カッコウの仲間は相変わらず姿を見せてくれず、出番の無いスコー
プがますます重く感じられた。
モンキチョウ |
金山廃村のグミ |
金山峠から阿瀬渓谷に入ったところで、すぐに男女二人組とすれ違った。
これから蘇武岳だろうか。廃村手前の竹藪で、オオルリのペアが低い梢をう
ろうろしているのを観察。夏鳥たちは繁殖活動に忙しい時期だ。石垣のユキ
ノシタをかすめて、アサギマダラがフワフワと飛んで行った。
分校跡。そういえば丹波のたぬきさんがグミの話をしていた。その昔、村の
子供たちが食べたグミの実に思いを馳せる記述が印象的だった。そのグミの
実を写真に撮った。そして赤くなった実をひとつ口に入れてみたが、渋くて
すぐに吐き出した。何十年ぶりかでグミを口にしたが、確かに、あの頃の夏
の記憶の味がした。懐かしい味だった。
グミの渋さをキャラメルでごまかしながら腰を下ろしていると、すぐそばで
サンコウチョウが鳴き始めた。声の方向を見上げていると、あの長い尾をピ
ンと伸ばして、サンコウチョウが飛んだ。いいもの見たなあ。
ついに帰り道でもアカショウビンの声は聞けなかった。蘇武岳までのロング
コースをスコープ担いで往復したものの、結局スコープに入った鳥はほんの
僅かであった。まあ、そんなもんだな。言い聞かせるようにスコープを片付
けると、駐車場から見下ろす谷の底から、まったく唐突に、あの鳴き声が聞
えてきたではないか。
『お疲れ。今日、僕はここに居たんだよねぇ』
「ヒョロロロロ…」(尻下がりで読んでね)
なーんだ、そんなことかい。でも、最後の最後に、赤い鳥の声が聞けてよかっ
た。2度鳴いて、やっぱり今回も幻の鳥のまま、その声はすぐに消えた。
呆然と谷を見つめていると、100mほど離れたスギのてっぺんにアオバト
が止まった。この鳥も、私にとっては幻の鳥の一つ。初めてスコープ越しに
見るアオバトのやわらかな表情が、今日一日の疲れを癒してくれるようだっ
た。
【今回観察した野鳥リスト】30種
オオルリ、ミソサザイ、ホオジロ、クロツグミ、キセキレイ、アオゲラ、
カケス、ツツドリ、カワガラス、メジロ、シジュウカラ、ヤブサメ、
ウグイス、ジュウイチ、カッコウ、ホトトギス、キビタキ、トビ、モズ、
コシアカツバメ、イワツバメイカル、ハシブトガラス、ヤマガラ、エナガ、
ヒヨドリ、サンコウチョウ、アカゲラ、コゲラ、アカショウビン、アオバト
【 登山日 】02年6月8日(土)
【 目的地 】阿瀬渓谷〜蘇武岳 (1074m)
【 山 域 】但馬
【 コース 】阿瀬渓谷駐車場よりピストン
【 天 候 】晴れ
【メンバー】たじまもり単独
【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
【 タイム 】自宅6:12…阿瀬渓谷駐車場6:53-7:00…不動尊7:50…
分校跡8:23-8:34…金山峠9:40-9:50…見晴台10:57…
蘇武岳11:18-12:10…見晴台12:22…金山峠13:17-13:24…
分校跡14:17-14:46…不動尊15:05…駐車場15:46
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