春蘭の参道、進美寺山


 実家の母をピックアップし、すっきりしない空の下を南に向った。今日の行
 先をどこにしようか、まだ決めかねていた。日高町のランドマークでもある
 進美寺(しんめじ)山がフロントウィンドウ越しに見え、まだ一度も登った
 ことのないこの山に登ってみたくなった。
 
 土居のバイパス道を走ると、腹と翼の白が目立つカモメのような鳥が二羽、
 カラスを攻撃していた。すぐにケリだと分かり、路肩に駐車してスコープ越
 しに写真撮影。ケケケ…と鋭い声で鳴きながら、テリトリを脅かそうとする
 侵入者には容赦無い攻撃を仕掛けてくる鳥だ。人間にも襲い掛かるので、特
 にこれからの繁殖期には注意が必要だ。
 
 マーケットで食料を仕入れてから、登山口の赤崎の集落に向う。円山川右岸
 のこの村は、河川の氾濫でたびたび孤立状態になる。護岸工事が今日も進め
 られていた。村の入口で路肩に車を置き、こたじま/GEN、母たじまの3人で
 村に入る。T字路を右折してすぐの納屋の軒下に、登山口を示すプレートが
 置いてあり、これを頼りに坂道を山に向う。
 
 村中の急な坂を登ると、年配の女性が挨拶をくれた。見れば私が小学校時代
 にお世話になった保健室のY先生だった。彼女の長男K君は私と高校の同級
 生でもあった。K君のことを尋ねると、今家に居ますよと返事が返って来た。
 彼に宜しく伝えてくれるよう言い、いよいよ山の中に入った。
麓から20分の展望場所
麓から20分の展望場所
山頂と進美寺の分岐点
山頂と進美寺の分岐点
 村の神社を過ぎると、古い石段の道がしばらく続く。道端の地蔵様は山頂ま  で置かれている。しっかり踏まれた登山路は、山頂近くに建立された進美寺  への参道でもあった。かつては、この山寺にも住職が住んでいたらしいが、  山を下りて久しいと聞く。電線が山の上に向って延び、山の上に人の生活が  あったことを思う。    20分ほど歩いて息が上がる頃、地蔵様の置かれた展望の良い岩に出る。寺  に参る村人も、汗を拭いながら、おそらくここで一服したに違いない。眼下  には、赤崎橋と、その前後を大きく蛇行しながら流れる円山川が見えた。    このところの鳥見の趣味が高じて、今日は三脚に付けたフィールドスコープ  を担いでいる。これが結構重く、次第に肩に食い込んでくる。結局、まとも  な鳥観察は出来なかったのであるが、今後は鳥見と山歩きは、きっちり分け  て楽しんだ方が良いことを実感した。「二兎を追うもの…」である。    村のお宮さんからおよそ30分ほどで、立派な道標に出会う。「右 山頂白  山権現」「左 進美寺観音堂」とあり、何度かここを訪れたことのある母た  じまの案内に従って、広場のあるお寺の方に向う。ここから道はゆっくり下  るトラバースとなり、10分でお寺に到達する。
雪囲いの進美寺観音堂
雪囲いの進美寺観音堂
立派な木造建築
立派な木造建築
 広い境内は手入れが行き届いており、住む人を無くした寺とは思えないほど  である。ちょうどお昼のサイレンが下から聞こえ、広場に陣取ってランチタ  イムとした。時折冷たい風が吹き、ラーメンの温もりがご馳走であった。  ヤブツバキの、ちょうど登りごろな大きな木があり、腹のふくれたこたじま  /GENがさっそく猿モードに。時折たしなめながら、食後のコーヒーを啜る。    ここから北に延びる尾根伝いに林道が通っている。寺へのアクセスは、もっ  ぱらこの林道が利用されており、手入れの行き届いている理由も納得が行く。  その林道から、一人の親爺が汗を流しながら登ってきた。挨拶を交わし山頂  へ向って行った。    ムシロの雪囲いですっぽり覆われた観音堂にお参りする。山門両脇の木彫り  の仁王像は歴史の古さを感じ、お堂を見上げれば、細かい龍の細工が大層立  派であった。歴史と由緒を伝える進美寺を後にする。
蘇武・神鍋方面の展望、正面山腹に白く光るのは但馬ドーム
蘇武・神鍋方面の展望、正面山腹に白く光るのは但馬ドーム
 先ほどのトラバース道の上部に付けられた、別の道を歩いて山頂へ向う。合  流点には木の鳥居があり、こちらは神社への道であることが分かる。一つの  山頂に、お寺と神社が共存する、古くから信仰の深い山であったようだ。    山頂直下の急斜面は、明るい潅木林のつづれ折り。西に開けた場所から、妙  見・蘇武の山塊が正面に見え、神鍋山の手前には、三角形の真っ白な屋根を  光らせて、但馬ドームが見える。カヌーで下る円山川のお馴染みのコースが、  左から右に大きな弧を描きながら江原の町に注ぎ込んでいる。北には、タム  シバの白い花越しに、来日岳が霞んでいた。
猪が耕した山頂広場
猪が耕した山頂広場
 山頂は小さな祠があるだけの、殺風景な佇まいであった。お寺で再び会った  下山の親爺が伝えてくれた通り、祠の周りはイノシシが見事なまでに土を掘  り返していた。神様の奉られた祠の前で、イノシシ達の夜毎の儀式が行われ  ているのだろうか。「もののけ姫」の世界を想像しながら、足早に山頂を後  にした。    今回の山歩きは、下山時にその楽しみを味わった気がする。今シーズン初の  山歩きということもあり、登りは歩く以外の余裕がなかったのだ。下りはゆっ  くり足を運びながら、母たじまは、迫った華展用の材料を集めた。遊び相手  の居ないこたじま/GENは、先に走り下りては、なかなかやって来ない我々二  人を急かすように、また上ってきたりした。
道端に見掛けたシュンラン
道端に見掛けたシュンラン
花は、まるで風車のようだ
花は、まるで風車のようだ
 シュンランを見つけたのは追い付いた母たじまであった。上の方にあったと、  彼女を待ちながらツツジの写真を撮っていた私に告げた。「ここにも、よう  け(沢山)咲いとるがな」 ふと足元を見れば、シュンランの小さな群落が  あった。いつもは、もう少し遅い時期から山を歩き始めるせいだろうか、私  には山でシュンランに出会った記憶が無かった。    黄緑色と薄紅色のグラデーションが美しい。3枚の羽根を広げた様子は、風  力発電の風車を思い起こさせる。春の風を、花一杯に取り込もうとするよう  な姿が、短い命の儚さを物語っているようだ。可憐で美しく、それでいて路  地の花には無い気品に溢れた花。
白花のタチツボスミレ?
白花のタチツボスミレ?
ヤマルリソウ
ヤマルリソウ
 シュンランは下山途中、何度も目を楽しませてくれた。母たじまによれば、  水はけの良い斜面に咲くのだと言う。それらしい場所を見れば、なるほど、  簡単に見つけることが出来るのだった。    上りには気付かなかった沢山の花が見えた。山道にはタチツボスミレが咲乱  れていたし、その中に混じって、白い花の個体も見つけた。斜面から山道に  枝を伸ばすのは、キンキマメザクラ。麓まで下りてくると、道端にヤマルリ  ソウが花を付けていた。    山を下りての帰り道、赤崎橋の河原に寄ってカンゾウを摘んだ。春の恵みに  感謝しながら、初めての進美寺山を後にした。  【 登山日 】99年4月3日(土)  【 目的地 】進美寺山(361m)  【 山 域 】但馬  【 コース 】日高町赤崎地区よりピストン  【 天 候 】曇り  【メンバー】たじまもり,こたじま/GEN,母たじま  【 マップ 】持たず(2.5万図「江原」参照)  【 タイム 】赤崎地区P11:13 → 村のお宮さん11:19 → 展望場所11:35 →        道標のある分岐11:49 → 進美寺(265m)12:00-12:55 →        木の鳥居13:07 → 進美寺山(380m)13:15-13:18 →        道標のある分岐13:49 → 村のお宮さん14:24 → P14:29        (注:標高は腕時計組込みの高度計の指示値)                         ○▲▲たじまもり▲▲☆