幽玄の森を歩く、扇ノ山


 毎年、紅葉の季節になると扇ノ山小ズッコのブナ林が恋しくなる。同じ時期
 にここを訪ね、森の様子を確かめたいと思うようになった。そんな年一度の
 ブナの森歩きの日は、小雨交じりの朝から始まった。
 
 家族揃って歩きたかったが、それぞれの都合が重なって、結局、このところ
 の常連となったこたじま/GENだけが残った。それも、かなり強引に連行する
 ようなことであった。同行の萬屋さんの車に迎えられ、低い雲を気にしなが
 ら家を出た。荷台には忠犬クラノスケ。初夏の氷ノ山スズノコツアー以来だ。
 「よぉ!」と振り返って手を振る。

 村岡あたりで雨足が強まったが、それ以上の降りにはならなかった。上山高
 原から先は雲の中。小ズッコ登山口には数台の先客あり。少し離れた路肩の
 膨らみに駐車し、カッパ上下を着て出発する。こたじま/GENには、萬屋さん
 がスパッツを貸してくれたので助かる。しかし、ズックだったので濡れた山
 道歩きは気の毒なことをした。彼には、今日は長靴が正解だった。
ガスに煙る小ズッコブナ林
ガスに煙る小ズッコブナ林
唯一見付けた鮮やかな色
唯一見付けた鮮やかな色
 小ズッコブナ林は幽玄の世界。変形ブナのオブジェが、霧の中で謎の生き物  のようにぼんやりと立ち尽くしている。ブナの濡れ落ち葉を踏みしめながら、  霧の中に吸い込まれるように足を進める。  今年のブナの実は、どうだろう? しゃがみ込んで落ち葉をかき分ける。  沢山の実が落ちている。その一つを拾って齧ってみる。久しぶりに味わう森  の味だ。昨年の今時分はツキノワグマの里への出没情報が多く聞かれたが、  今年はほとんど耳にしない。ブナの実を噛みながら、森の生き物に思いを馳  せてみる。
山頂避難小屋もガスの中
山頂避難小屋もガスの中
小ズッコを抜けると雲が切れた
小ズッコを抜けると雲が切れた
 大ズッコのピークを越え、標高1310mの山頂着。避難小屋からは先客の賑や  かな声が聞こえてくる。丁度空いていた一階の部屋に、クラノスケ共々入り  込む。カップラーメンの暖かさが嬉しい。主人が餌を忘れ、紐に繋がれたま  ま腹減ったコールを繰り返すクラノスケ。ようやく主人のカップラーメンを  分けてもらって静かになった。我が家からもビタミンサラダをプレゼントす  る。  来た道を下山。クラノスケが先頭を切ってリードしてくれるのが頼もしい。  帰りのブナ林もガスの中。来た時より少し明るくなってきたようだった。  小ズッコブナ林を抜けると、急に雲が切れて青い空が見えた。紅葉の見頃に  は少し早いようだったが、色づき始めた広葉樹が一斉に輝いた。  水墨画のブナ林歩きも乙なものだった。森の実りを感じながら、急速に雲が  消えてゆく山を後にした。  【 登山日 】99年10月23日(土)  【 目的地 】扇ノ山(1310m)  【 山 域 】因但国境  【 コース 】小ズッコ小屋から山頂ピストン  【 天 候 】雲の中  【メンバー】萬屋正右衛門さん, クラノスケ, こたじま/GEN, たじまもり  【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」  【 タイム 】自宅9:25…小ズッコ登山口(1040m)11:26-11:40…        大ズッコピーク(1280m)12:33…山頂(1315m)12:55-13:53        大ズッコピーク14:15…小ズッコ登山口15:12        (標高は腕時計の高度計による)