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黄葉のブナ林を歩く、扇ノ山



小ズッコブナ林

渋る妻の尻を叩いて久しぶりの山歩きに向かった。「行ったことのない山にし
ようよ」という妻の意見はもっともであるが、いつもの森歩きこそが信条の私
は迷わず扇ノ山を選んだ。明日から崩れる天気予報に、黄葉のブナ林歩きは今
日が最後だろう。毎年、この山を秋に訪れる頃にはブナ林はすっかり落ち葉の
中で、それはそれで楽しいのだが、黄葉の一番美しい小ズッコの森を歩いてみ
たかったのである。

秋晴れの林道をゆっくり上る。麓の紅葉にはまだ早いが、高度を上げるにつれ
て山の色付きも鮮やかになってゆく。ススキ野の上山高原を越えるといよいよ
紅葉は艶やかさを増し、ショウブ池を見下ろすポイントで向かいの山肌の美し
さにレンズを向ける。今日のお供のカメラはお気軽Nikon1。

小ズッコ登山口は路肩も含めて10台ほどの先行グループの車があり、この日
の人気ぶりをうかがわせた。我が家からおよそ2時間のアプローチ。いつも通
り歩行開始はお昼前となった。腹ペコをミニあんぱんで誤魔化してスタート。
紅葉の小ズッコ登山口の様子。

河合谷からの道と合流し、小ズッコブナ林に入る頃には、次々に下山パーティ
とすれ違う。妻が「あれ見て!」と指差す立ち枯れにツキヨタケがびっしりと
付いていた。小ズッコブナ林の核心部は見事な黄葉で、申し分のない秋晴れに
照らされた森にひとしきり風が渡ると、枝を離れた枯葉がはらはらと地上に舞
い落ちた。

小ズッコピーク登りの5本立ちのブナが扇ノ山の「じいちゃんツリー」である。
晩年は甘いものに目がなかった父に、妻がキャンディーを一つ根元に置いた。
大ズッコピークを越えて鞍部に下れば、紅葉越しの扇ノ山ピークが目前に迫る。

畑ヶ平コース分岐までの最後の急坂をあえぐと、展望デッキから鳥取市内を一
望する。扇ノ山の紅葉がなだれ落ちるように麓へと続いている。里の紅葉はこ
れから足早に降りてゆく。曲がりブナのゲートをくぐって1310mの山頂。登山
パーティが引いた後の我が夫婦だけの貸切でお昼にする。南の展望は氷ノ山。

やがて単独男性、男女ペアが相次いで到着し、最後にかしましい中高年グルー
プがやってきたところで腰を上げ、来た道を引き返す。大ズッコの登り、往路
より復路の方がブナの表情が豊かである。そして極めつけの小ズッコブナ林は、
西日を受けて森全体が立体感を増し、ブナの1本1本が鮮やかに浮き出て見え
る。何度もこの道を歩いてきたけれど、今回ほどブナ林が美しく感じられたこ
とはなかった。黄葉のタイミング、絶妙な斜光、午後の空気感、いくつかの条
件がうまく重なったのだろう。

登山道脇の芦生杉のウロには、木彫りの仏像が置かれていた。今は倒壊してし
まった小ズッコ小屋近くの大きな立ち枯れのウロにも置かれていたが、同じ作
者が場所を移して収めたものだろうか。木霊に捧げたものか、弔いの証なのか、
作者の意図とは無関係に手を合わせたくなる。

ブナの黄葉が西日に照らされるのに感嘆してはシャッターを切る。往路は私の
方がリードした歩行ペースも、復路はすっかり妻のリードになった。疲れが早
く出るようになったのは加齢による体力減退もあるが、体重が増えてしまった
ことが大きいだろう。登山口に戻ったときには、我が家の車の他には1台があ
るだけだった。

林道沿いの紅葉に目を奪われながらゆっくり車を走らせる。上山高原は行楽の
人がまだ沢山残っている。車を停めてススキ野を撮ると、どこからか鹿の鳴き
声が聞こえた。海上の集落を見下ろすポイント。この村の山田の風景は本当に
美しい。前回も寄り道した林道脇の滝に立ち寄る。アプローチの入口には石の
道標が整備されていて、この滝が茂平谷滝と名づけられていることを知った。
落差15mの一本滝は黒い岩肌に映えて美しい。

予報どおり天気は下ってゆき、翌日の明け方にかけて強い風雨となった。
扇ノ山のブナ林もこれでいっぺんに葉を落とし、落ち葉のしとねをまた一つ重
ねて冬の長い眠りにつくのだろう。

※Nikon1V1+10mmx0.79,VR18-200

 【 登山日 】12年10月27日(土)
 【 目的地 】扇ノ山(1310m) 
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】小ズッコ登山口よりピストン
 【 天 候 】晴
 【メンバー】たじまもり+妻たじま
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】小ズッコ登山口P11:45…扇ノ山ピーク13:15-13:50…P15:10