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夏の木漏れ日、扇ノ山



小ズッコブナ林

テキサス州からハナとジェフがやってきた。ハナはオースティン在住の知人の
娘ベロニカが通った小学校の女性教師、ジェフはその恋人。ジェフはロックク
ライマーで、そのインストラクターとして活躍している。ハナも一緒に岩をや
るらしい。但馬に縁深い知人が、彼ら二人の初めての日本旅行の行き先として、
但馬を推薦したのだ。但馬の素晴らしい自然を満喫してこいというのが、自然
好きの二人への旅のアドバイスだった。

彼らを扇ノ山に案内しようと決めるのに時間は掛からなかった。たとえ当日雨
が降っても、この森を歩くことに何の不安もなかったし、但馬の森歩きの楽し
みを伝えるのに、一番ふさわしい場所だと思った。週間予報では天候が崩れる
ことが予測されたが、日本列島を西と東から挟んで北上する2つの台風の影響
もあってか、格好のトレッキング日和となった日曜日。蘇武トンネルを抜け、
以前より30分あまりも時間短縮で小ズッコ登山口に到着した。

身仕度をすませ、小ズッコに向かって歩き始めた。ハナとジェフのスタイルは
ショートパンツ。アメリカンな夏のトレッキングスタイルはショートパンツと
決まっているみたいだが、虫の多い湿った但馬の森歩きには少々無防備すぎる
かも知れない。足元は本格的なトレッキングシューズ。ジェフはプロのクライ
マーだから、彼らを案内するのに何の不安もなかった。

小ズッコの森を巡る登山路には夏の木漏れ日がブナの影を描いていた。このブ
ナ林の素性や冬の豪雪の話をしながら、圧雪でねじ曲がったブナの「オブジェ
の森」をゆっくり歩く。大ズッコの登りに掛かる前に休憩をとる。フワフワ落
ち葉の地面に腰をおろし、この下には膨大な落ち葉が堆積していること、だか
ら歩くと心地よいクッションが伝わってくることを説明。ジェフが「いい土だ
ね」と相づちを打ってくれた。見上げれば、我々はまさにブナに包まれており、
エゾハルゼミの合唱を聞きながら心を開放するのだった。

「トレーニングのために、ボクはランニングで来た道を下りてからまた登って
くるけどOKかい?」 ジェフの走り去る軽快な後姿をみなで見送った。どこ
まで下ったのか知らないが、10分足らずで彼が戻ったところで腰を上げた。
ハナとジェフ、彼らのステイ先のユミコさんの3人は、大ズッコのピークを軽
快に登ってゆき、たじまもりペアはときどき道草観察しつつマイペース。
花の季節は終わってノイチゴ系?の白い花をかろうじて見つけてレンズを向け
る。アブだかハエだか分からない黄色い小さな虫が、葉の上で集団交尾?のよ
うな仕草を繰り返しているのを興味深々で観察。

大ズッコを一旦下り、最後の登り。山頂手前のテラスで展望する彼らに追いつ
いた。鳥取市内は霞んでよく見えないが、ハナとジェフは双眼鏡で熱心に遠望
していた。ジェフはここでも走り下りてゆき、山頂で寛ぐ我々の元にほどなく
戻ってきた。往路では下山の3パーティとすれ違ったが、山頂は我々だけのも
のだった。こうして並ぶと、180cmオーバーのハナとジェフの大柄ぶりが
わかる。

台風の風が強く、避難小屋の中でお湯を沸かす。その間、ジェフと山の話をし
た。趣味の違う英会話は辛いが、山や生き物の話なら苦にならない。ジェフの
ゲレンデの一つはヨセミテで、4日間かけて制覇するような巨大な岩があるそ
うだ。食料を含めた重い荷物はどうするのかと尋ねたら、人がまず空荷で登っ
たあと、下の荷物を滑車で釣り上げるとのこと。最初の2日間はザックが重い
ので、人間が吊り下がって荷物を上げるのだとか。だから、同じ壁を2回登る
ことになるんだよとジェフは笑った。

山頂の生き物案内板を見ながら、このあたりに生息している生き物の話をする。
もちろん詳しく説明できるほどの英語力は無いが、なんとなく分かってもらえ
たようだった。13時20分、同じルートで下山開始。大ズッコの登り返しで
また差をつけられた。のんびりサンカヨウを撮ったりしながら後を追う。
小ズッコで待っていてくれた彼らに一旦追いつたが、ギンリョウソウの実が不
思議な造形でブナの林床に点在しているのに目を奪われたり、ヤマアジサイの
微妙な色加減を楽しんでいるうちに、また一人離されてしまった。

小ズッコ小屋で合流し、フジバカマに目をやりながら最後の歩きを終えた。
こんな素晴らしいブナ林を歩けて本当によかった。ザックを下ろしたハナとジェ
フは今日のトレッキングを心から喜んでくれた。案内してよかったなあ、妻た
じまと車で振り返りながら、台風の強い風で出来たレンズ雲の下、上山高原の
林道を下って行った。ユミコさんはその後、彼らを温泉町の足湯に案内し、村
岡温泉で汗を流してから帰路についた。我々は一足先に自宅に戻り、その夜の
ホームパーティの準備を進めた。クールなハナとジェフと過ごした1日は、私
たちのよき思い出として残ることになった。See you!

※撮影はすべてNikon Coolpix5000+WC-E68

 【 登山日 】04年7月4日(日)
 【 目的地 】扇ノ山(1310m) 
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】小ズッコ小屋よりピストン
 【 天 候 】晴れ
 【メンバー】Hanah & Jeff from Texas、Yumiko、たじまもり夫婦
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】小ズッコP11:00…扇ノ山ピーク12:30-13:20…P14:35