酒呑童子が駆けた峰/丹後・大江山集合場所の大江山憩いの広場には、迷うことなく1時間のドライブで到着し た。朝霧の上がった千丈ヶ岳は、緩やかな稜線を描いて赤や黄色をまとって いた。憩いの広場をはさんで千丈ヶ岳と対峙する赤石ヶ岳の北斜面は、一面 のススキの穂が駆け上がり、紅葉の潅木を交えて山頂に達していた。 時間があったので、こたじまたちと施設を見て歩いた。赤い屋根のバンガロ ーが点在し、管理棟や集会所、展望大浴場と書かれた建物が見えた。赤石ヶ 岳に登るモノレールと称す乗り物がカバーをかけられて停車していた。モノ レールといっても、果樹園で見られるような耕運機並みの動力装置のついた 簡単な乗り物である。その停車場を見下ろす斜面には、これまた簡素なフィ ールドアスレチックの遊具があった。家族連れのピクニックや、研修会など によく利用されているのであろう。 駐車場に戻ると見知らぬ中年男性が声をかけてきた。聞けば、我がホームパ ーティのメンバーであるカワジャコさんだという。最近は発言も途絶えて、 そういやすっかり存在を忘れておったなあ。(^^; ホームパーティでのアナ ウンスを見て飛び入り参加しました。カワジャコさんは申し分けなさそうに そう言った。奥様も一緒であった。たじまもりHPのオフとして計画した本 日の登山であったが、結局どなたの参加表明もなく寂しい気持ちで出発した のだった。思いがけない突然の参加者を迎え嬉しくなった。 カワジャコさんと挨拶を交わしているうちに、丹後の住人、はいかいさんが 到着。5月の円山川カヌー下り以来の対面である。事情を説明し、私の車を 置いて2台で出発地点の池ヶ成公園に向かった。国道176号はよく整備さ れ、道の駅やら古墳公園やらを眺めながら、ほどなく地道から林道へ。はい かいさんのマニュアルミッション、禁煙ステッカー付きトヨタカリブは、連 続カーブを果敢に攻めながらぐんぐん高度を上げる。車に滅法弱い後部座席 のこたじま/YUUの気分もぐんぐん悪化する。ゴール直前で、緊急停車。路端 で少し吐いた。池ヶ成公園は、公園と呼ぶには何の施設もない場所であるが、 トイレもあって登山の駐車場としては申し分ない。駐車スペースも十分だ。 身繕いをし、予定通り10時に歩き始める。天気も上々。素晴らしい一日と なりそうな予感があった。 12分歩いて稜線の分岐に到着。トタン葺きの避難小屋があったので中を覗 いてみる。土間の真ん中にダルマストーブがポツンとあり、壁際にコの字状 の縁があった。奥は2段になっていて、10名程度は泊まれそうだった。は いかいさんの説明では、大江山は積雪期には山スキーも盛んだそうで、その 目的の小屋なのであろう。カワジャコさんはリコーのデジタルカメラで古い 石の道標を写しながら、今後の自分のライフワークにするのだと話した。物 見高いこたじまたちが、たちまちカメラの映像に群がって機械をあちこち触 りまくった。 今日の登山は、元々あきゆきさん主宰の低山徘徊派ホームパーティのオフミ として企画されたものである。計画はメンバーである岡山のたにけいさんを 中心に行われた。低山隊は我々とは反対側の大江町からの入山。鬼の岩屋を 経てこの分岐に現れることになっていた。その低山隊、10分も待たずして 賑やかにやってきた。先頭はPLUTO さん。2年ぶりだが、いささか体つきに 貫禄が出てきた。太ったともいう。見慣れぬ顔も混じって、たにけいさん、 最後にあきゆきご夫妻が現れた。あきゆき夫人のベッピンさんは相変わらず で、しばし見とれてしまう。低山隊は8名。これにたじまもり隊7名が合流 し、総勢15名のパーティでこれより千丈ヶ岳まで行動を共にすることにな るのである。簡単な自己紹介を交わし、いよいよ鍋塚への登りにかかった。 急な階段道が続き、一気に高度を上げてゆく。前日の雨で滑りやすい。しば らくPLUTO さんと一緒に歩く。彼の腰に付けられた小型無線機が時折ガーと かピーとか音を立てる。すっかり無線オタクと化したPLUTO さんの次なるタ ーゲットはインターネットとのこと。やがて潅木もまばらになって草原とな る。ところどころ大きな岩が転がっていて、程よいアクセントとなっている。 振り返ると、眼下に航空自衛隊だかの無線施設が無粋に横たわっている他は、 見事な山と海の景色が広がっていた。丹後の山に登るたびに海の風景に心を 奪われるが、大江山もその例にもれない。草原をしばらく登って鍋塚(763m) 山頂。分岐から20分の行程。 先客の7・8人のパーティが山頂で車座になって飲んだり食ったりしている。 はやくも腹減ったコールのこたじまたちが恨めしそうに涎を垂れる。記念撮 影を済ませ次のピーク、ランチタイムの待つ鳩ヶ峰に向かう。目の前に鳩ヶ 峰から千丈ヶ岳に続く雄大な尾根を見渡しながら、鍋塚直下の急斜面を駆け 下りる。幾度となく、誰彼が滑って尻餅をついては笑いが起こる。下りきっ た台地から鍋塚を見上げれば、なるほどその名の由来の通りのこんもりとし た丸いピークであった。鍋塚から20分下ったコル、大江町から上がってき ている舗装された林道の終点に飛び出る。休憩所とトイレがあり、車も7・ 8台は置けようか。この日は2台が止まっていた。ここから15分の登りで 鳩ヶ峰(746m)着。 思い思いのランチメニューが飛び出す。我が家は、妻たじ まが朝握ってくれたおにぎり。都合で参加できなかった妻 たじまが、こたじま達の弁当箱に短いメッセージを添えて いた。私のにも入っているかと思いきや、一言もないのに 激しく落胆しながらカップラーメン用のお湯を沸かす。は いかいさんはラーメン、PLUTO さんは得意の「おにぎり崩 し雑炊」を作っていた。この日唯一の若い女性である宮崎さんがデザートの オレンジを配ってくれる。宮崎さんはPLUTO さんの無線仲間。同じく腰に小 型の無線機があり、ピーとかガーとか言っていた。腹の膨れたこたじまたち は、斜面をキャーキャー言いながら滑りおりたり、芝の上を犬となってゴロ ゴロのた打ち回ったりで、まったく手の付けようが無いのであった。 10万図を広げて山岳同定を行う。北東に特徴的な青葉山。 磯砂山から眺めた時はそうは見えなかったが、二つのピー クを持つ山容がよく分かった。北にはこれまた特徴的な形 の依遅ヶ尾山。北西にデ〜ンと大きな塊となって見えるの が磯砂山。残念ながらここからは1010段の階段は見え ない。西に続く尾根の中で一際目立つピークが高竜寺ヶ岳。 ブナの紅葉に思いを馳せる。西の空に霞んで南北に横たわっているのが但馬 中央山脈。あきゆきさんに蘇武岳が見えますよと声をかけると、2年前を振 り返りながら、今度は晴れた時に登りたいですわと笑った。南西には粟鹿山。 氷ノ山は見えていないようだった。南はこれから向かう千丈ヶ岳に阻まれて 展望はきかない。西の眼下には加悦町が箱庭のように見えている。かつてこ の山に棲んでいたとされる酒呑童子は、この稜線から里の様子を窺っていた のだろうか。 大休憩の後、この日のフィナーレである千丈ヶ岳に向かった。落葉樹の林を 巡る登りはかなりの急勾配で、最後は足を上げるのが辛いほどであった。紅 葉は少しだけ早い感じであったが、その分、緑に映える赤や黄色が鮮やかに 目に写った。路傍には、リンドウやツリガネニンジンの青い花が咲き競って いた。時々キノコも目についたが、食用なのか毒なのか分かろうはずも無か った。 鳩ヶ峰から25分。千丈ヶ岳(833m)は広い山頂で、北から 東にかけて少し展望に欠けるものの、ぐるりを見渡す恰好 の展望台である。たくさんの登山パーティがやわらかな日 差しを受けながらおしゃべりの輪を作っていた。千丈ヶ岳 には「大江山頂上」の立派な案内板があって、この山こそ が大江山連峰の代表として君臨しているのであった。低山 隊の芳村さんの話では、この日お祭りの大江町では、雲海登山と称して大勢 の人達が朝早くこの山を目指したのだという。なるほど、ここから見る雲海 はさぞやすばらしいものであろう。鳩ヶ峰からは望めなかった南の展望がこ とのほか良く、三岳の大きな山塊の向こうに、うねうねと丹波山地が霞んで 見えていた。南の眼下に今朝方集合した大江山憩いの広場を望み、その背後 にそびえる赤石ヶ岳の西斜面から飛び立つ赤や青のパラグライダーが、国道 176号線のループ橋に向かって緩やかに降下してゆくのが見えた。 展望とおしゃべりをたっぷり楽しんだ後、南の尾根を下る。すぐに木立に囲 まれ、東にスギ植林が現れたところで大江町と加悦町の分岐に出会う。低山 隊とはここまで。名残を惜しみながら右と左に別れた。ここからの道はかな り広い歩きやすい道ではあったが、長く続く急勾配は上りに使うのには結構 なアルバイトとなる。やがて林道に降り立ち、傾きかけた秋の日差しを正面 に浴びながらのんびりと歩く。右に双峰の道標が現れて再び山道に入り、緩 やかな登りを経て高原の中を大江山憩いの広場に下山。山頂から50分の長 丁場であった。 こたじまとカワジャコさんの奥様を残し、車の回収に向かう。池ヶ成公園で はいかいさんと別れ、とんぼ返り。西日を受けた大江山連峰の山肌を見上げ ながら、今日一日の素晴らしい山行を振り返った。実のところ、鬼が出るほ どの、険しさも、陰鬱さもない晴れやかな印象の山であった。我が家のチビ 鬼たちが、ひとしきり大騒ぎした大江山ではあったが。 【登山日】96年10月27日(日) 【目的地】大江山連峰[鍋塚(763m),鳩ヶ峰(746m),千丈ヶ岳(833m)] 【山 域】京都府丹後地方 【コース】加悦町池ヶ成公園〜大江山縦走〜大江山憩いの広場 【天 候】晴れ 【メンバー 】たじまもり隊:はいかいさん、カワジャコさん夫妻、 こたじま/KAO,YUU,GEN、たじまもり 低山隊 :あきゆきさん夫妻、たにけいさん、PLUTOさん、 宮崎さん、かねちゃん、芳村さん夫妻 【マップ】「分県登山ガイド25/京都府の山」(山渓)参照 【タイム】自宅8:00 → 大江山憩いの広場9:00 → 池ヶ成公園10:00 → 稜線分岐10:12-25 → 鍋塚10:45-11:00 → コル11:20-30 → 鳩ヶ峰11:45-12:40 → 千丈ヶ岳13:06-14:05 → 憩いの広場14:55 ○▲▲たじまもり▲▲☆ 掲載したすべての写真は、低山徘徊派!HPの"あきゆき"さんより提供頂きました。 ↑ページトップへ