里山の春、三開山


 日曜日の午後、天気も回復してきたので、男こたじま二人を連れて目の前の
 三開山に向った。自宅を出ると風が少し強く、せっかく重いスコープを担い
 でいるのに、山での鳥はあまり期待できそうもなかった。
 
 駄坂の雑貨屋で缶ジュースを買い、こたじま/YUUが背負うザックの中に突っ
 込む。6年生にもなれば、ボッカとして充分に役立つが、野球少年のレギュ
 ラーキャッチャーの彼と、休日に山を歩くチャンスもめっきり減った。今日
 は久しぶりに男三人揃っての山歩きだ。

 三開山の西裾を20分ばかり北に歩いて、木内(きなし)地区のお寺から山
 に入る。お寺の駐車場前では、こたじま二人が立ち小便。男同士ならではの
 気軽さだ。斜面には(トキワ)イカリソウが沢山咲いている。お寺の裏の墓
 地の階段を上りきれば、右に向って山道が延びる。山道に入ると、真っ先に
 チゴユリが迎えてくれた。白い小さな花はうつむいて咲いており、花芯の薄
 緑色が、この白い花を涼やかに見せている。
チゴユリ
チゴユリ
 竹薮は、雪に潰されて酷い状態だった。それでも、タケノコがいたるところ  に顔を出して、新しい命がまた育とうとしているのだった。薄暗いスギ林の  下には、イノシシの足跡がおびただしい。この道は、人間より獣のための道  になっているようだ。    前衛の平坦部に出れば、竹薮と広葉樹が交じり合う場所。道端のお地蔵様が  目に付き始める。小さな石室の古墳を過ぎ、山頂への急斜面が始まる。少し  登ったところで分岐を右にとり、迂回路に向う。道端のイカリソウの姿がま  ばらになり、ゼンマイやワラビの若芽が目に付き始める。綿毛に包まれた幼  葉は、サナギから孵る昆虫のようにも見えて面白い。    アベマキやカエデを中心とする落陽樹林では、時折射す日の光りを透かして  若葉が美しい。登山道を塞ぐ倒木に三人で腰を下ろし、しばらく森の音を楽  しむ。ウグイス、メジロ、ヤブサメ、コゲラ、オオルリ、アオゲラ、ヒヨド  リ。鳥の声が森に響いた。
山道のゼンマイ(?)
山道のゼンマイ(?)
新緑のカエデ
新緑のカエデ
 こたじま達は、次々に現れるお地蔵様の顔を見ては、「笑っている」だの、  「怒っている」だのと、感じたままを言い合っている。そういえば、先ほど  から、三人して「名探偵コナン」ごっこをしながら歩いているのだった。   「ウーム、この顔無し地蔵、事件のにおいがする」   「おじさーん、こっちに顔が落ちてるよ」   「どーれどれ」  声を潰して喋っていたら、喉が痛くなって、もう止めにした。    最後の急登を終えると、201mの山頂。八重桜が迎えてくれた。山頂広場に陣  取っておやつタイム。眼下には、田んぼ仕事に精を出す農家の人達の姿が見  える。すぐ側で鳴いていたウグイスが我々に気付いて、キョキョキョキョと  鳴きながら離れた枝に飛び移った。    倒木で遊んでいたこたじま達が、大きな声を張り上げた。行ってみると、朽  ち木の中に10頭以上のゴミムシ(らしき甲虫)が、びっしりと体を寄せ合っ  ていた。この冬を越した虫たちであろう。もう目覚めても良い頃だ。
山頂の八重桜
山頂の八重桜
集団越冬のゴミムシ(?)
集団越冬のゴミムシ(?)
 肌寒くなり、脱いでいたジャケットをそれぞれが羽織って、東に向って下山  開始。低い石の鳥居をくぐり、そういえば、いつかこの三人で探検した時は、  薮の中からひょっこり、この鳥居の前に飛び出したことを思い出した。    植林の暗がりの中に、ヒトリシズカの花を一輪見つけた。その名前ほどには  清楚な花ではなく、光沢のあるウロコ状の葉っぱや、毛虫に見えなくもない  花は、どことなく動物的なイメージを感じる。
ヒトリシズカ
ヒトリシズカ
 尾根からは、工業団地や森尾の集落がよく見えた。眼下には、こたじま達の  通う小学校のグランドが見え、少年野球の練習が続いている様子が分かった。  鳥見には全然役に立っていないスコープをグランドに向け、こたじま達に観  察を任せる。知っている子供の名前を次々に同定し、こんな山の上から顔ま  で判別できることを面白がった。    しかし、この道は小学校に続いている。午前中の野球練習を休んだこたじま  /YUUにとっては、コーチと顔を合わすのはバツが悪かろう。分岐が現れたと  ころで黙って進路を北に取り、大篠岡の集落に向った。この山では誰もまだ  歩いたことのないコースだった。    高度を下げるにつれ、人の生活の匂いが濃くなる。再びイカリソウが現れ、  竹薮が現れた。意外にも、水源と思われる湿地が現れた。200mの山からも、  豊かな水が湧き出ているのだ。   「おい、湿地があるぞ」   「えっ! 血っ血が!?」  コナンごっこはまだ続いているらしかった。(笑)  竹薮の際には、シャガが綺麗に咲きそろっていた。
シャガ
シャガ
 小川に沿って、道は大篠岡の集落に続いた。想像していた場所に程近い場所  に飛び出した。そのまま道路を帰るのはもったいない。六方川の土手に出た。  タンポポを調べたり、鳥を見たりしながら、かなり大回りをして家に戻った。  ふるさとの山、三開山の新しい発見も果たした、春の午後だった。  【 登山日 】99年4月25日(日)  【 目的地 】三開山(201m)  【 山 域 】但馬  【 コース 】木内〜山頂〜大篠岡  【 天 候 】薄曇り  【メンバー】たじまもり,こたじま/YUU&GEN  【 マップ 】持たず  【 タイム 】自宅13:24 → 木内のお寺13:48 → 直登との分岐14:20 →        三開山山頂14:47-15:04 → 大篠岡分岐15:21 →        大篠岡集落15:41 → 自宅16:50                         ○▲▲たじまもり▲▲☆