こたじま探検隊、里山をゆく/三開山
 但馬の秋は里山を美しく彩りながら、足早に過ぎ去ろうとしていた。視界に  入るすべての山々は赤や黄色に染まり、森は長い冬の眠りへの序曲を奏でて  いるようだった。精鋭のこたじま探検隊員はYUU & GEN の2名。隊長は私。  女人禁制の熱き男の大冒険が、これから始まろうとしていた。  な〜んて書いたらカッコ良いのだろうけど、実のところ前日の職場の宴会で  の酒が残っているらしい妻たじま、バレーボール疲れの娘からソッポを向か  れてしかたなく出かけた、男同士里山探検隊なのであった。日曜日の、11  月の終わりにしては異常なほど暖かな、風の穏やかな午後であった。  穴見川の堤防沿いを神美(かみよし)小学校に向かって歩く。学校裏のいつ  もの道から入るつもりで歩いていたのだが、ふいに、今日は知らない道から  山頂を目指そうと思いたった。こたじま/YUUに村の様子を確かめ、「瀬尾さ  んチの裏に道があるヨ」の情報を元に、路地を山に向かって入る。狭い路地  からは漬物の糠の匂いが漂い、軒下には吊るされたばかりの干し柿が朱色に  垂れていた。  路地の一番奥にある瀬尾さんチを過ぎるとすぐに竹薮とな  り、その中を細々とした踏み跡が続いている。こどもたち  が「底無し沼」と呼んでいる湿地を右に見、道は左の尾根  に続く。尾根には、やはり、だれそれさんチの裏から続く  何本かの道を集めて、わずかな踏み跡が山頂に向かって延  びている。竹薮がいつまでも続き、やがて雑木林となって  里山らしくなる頃、辿ってきた踏み跡もいよいよ怪しくな  ってきた。  険しい山肌に沿って左にトラバース。上部は鬱蒼としたスギ植林が覆い被さ  っている。ケヤキだろうか、巨木が人知れず谷底から伸び上がっている。ど  うやらこのまま行けば別の場所に下ってしまうようであり、少し思案してか  ら見上げるスギの薮に突入した。誰かが下刈りのために歩いたような形跡が  あるがそれは獣道と区別が付かず、ただひたすら足元のよさそうな場所に向  かって足を伸ばしてゆく。野苺発見! こたじま/YUU隊員より報告が入る。  足元のいたるところに赤く熟した小さな実があった。いくつかを口に入れる。  ちょっと酸っぱい山の味がした。  標高わずか200mの三開山(みひらきやま)は但馬富士  と呼ばれることもあり、市街地から東に望むその姿は裾野  を広げた端正な形を見せている。我々探検隊は、今まさに  但馬富士山頂直下の急峻な山肌にへばりついているのだっ  た。スギ植林の中はさほど歩きづらいものでは無いものの、  こたじま探検隊にとっては初めての薮であり、こたじま/GEN  隊員は時々難渋しているようだった。年上のこたじま/YUU  隊員は遅れるこたじま/GENに時々激励の声をかけ、兄貴らしいところを発揮  している。よしよし。こんな山歩き、男同士だからこうしてウキウキとやっ  てられるのだろう。ウチの女性隊員が混じったら、こんな怪しげなことはき  っと出来ないよね。  ようやく空が明るく見え、稜線の近くなったことを知る。  山城の名残である石積みの跡があり、そこからひと登りで  ポッコリと稜線に飛び出る。山頂の石の鳥居がすぐ目の前  にあった。まさに山頂まで直登といった登りであった。地  図もコンパスも持たない無謀な薮歩きではあったが、そこ  は勝手知ったる里山のこと。上には道がある、下には民家  がある。それだけの安心感で歩けるのも、地元の里山なら  ではである。  足元に広がる六方田圃は、広いグラウンドのように見えた。  田圃の中にポツンと新田小学校があって、その横をまっす  ぐ南北に走る農道に車の行き来するのが見えた。円山川の  向こうに来日山がきれいなシルエットを描いていた。南の  展望は、見る見る成長するスギ植林によって閉ざされてし  まっていた。前は我が家までよく見えたものだったが、今  は遠くの山際と空しか見えない。  初めての藪山突撃を経験したこたじまたちは満足感に酔いしれているようで  あり、当分の間、学校での自慢話の種になることは必至であった。そんなこ  たじまたちを追い立てるように、そうそうに下山にかかる。西斜面の落葉樹  の森を歩くことが、そもそも本日の目的であったのだ。思いがけない冒険は  オマケであったが、今後習慣性を持ちそうで正直言ってコワい。薮コギだけ  は、私の山歩きの信条では無かったはずなのだが…  3段あまりの堀切を急降下し、左に逸れる道に向かう。ケ  ヤキ、アベマキ、ホオノキ、ウリハダカエデなどといった  里山の落葉樹が、三開山の西斜面の一角で大きな群落を形  成している。この森はどの季節に歩いてみても、安らかな  感動を道行くものに与えてくれるのだ。奥山のブナの森は  素晴らしいけれど、こんな身近な感動も捨て難いのである。  柔らかな西からの光で、森の黄色や赤が一層輝いて見えた。  落ち葉をカサコソと踏みしめながら、そのいくつかを拾い集めて持ち帰り、  後で名前を調べてみた。  小さな古墳のある下りは急で、こたじまたちが何度も尻餅  をついては笑った。竹薮の中を、通ったことのない道を選  んで下ってみた。下から子供の遊ぶ声が聞こえ、やがて民  家が現れて思いがけない場所に飛び出た。  「おい、楽しかったなあ」  「うん」  「また、やろうで」  「やろう、やろう」  里山遊びは楽しい。子供の頃に転げまわった私の中の記憶が、いっしょに遊  ぶ私の子供たちの姿と同期しながらフツフツと湧きおこってくるのは、つく  づく気持ちの良いものである。女たじまたちに、この快感は分かるまい。  【登山日】96年11月24日(日)  【目的地】三開山(201m)  【山 域】但馬豊岡の里山  【コース】豊岡市香住〜(南斜面薮漕ぎ)〜山頂〜豊岡市駄坂  【天 候】薄曇り  【メンバー 】こたじま/YUU,こたじま/GEN,たじまもり  【タイム】自宅13:30 → 山頂14:15 → 自宅15:20                         ○▲▲たじまもり▲▲☆ ↑ページトップへ