涼風の来日岳


ヤマジノホトトギス
ヤマジノホトトギス

 9月最初の日曜日は、朝から曇り空。寝床から空の様子を確かめると、もう
 ひと寝入りを決め込んだ。遅い朝食をとりながらも、空の様子が気がかりだ。
 青空も少し見えてきた。「よし、山に行くか」

 近くのスーパーで食料を仕入れ、今日は一人で山に向う。さきほどパラパラ
 と雨が落ちてきたが、天気はこれから回復に向かいそうだ。雲の流れを追い
 ながら城崎へ向う。来日の集落を抜け、そのまま林道に入る。雨がほとんど
 降らなかったこの夏、谷川の水はすっかり枯れている。
 
 雲光寺のキャンプ場のヘアピンカーブで、昨年までは無かった登山標識に気
 付いた。2年前、子供達と下山した時には、この下山路を見逃して長い林道
 歩きを強いられたのだった。誰もいないキャンプ場に車を置き、アスファル
 トを歩き始める。
来日の村への道標
来日の村への道標
雲光寺のキャンプ場
雲光寺のキャンプ場
 5分と歩かないうちに、右手の法面に登山道の標識。「山頂まで2.1Km  徒歩45分」とある。うっかり見逃してしまいそうな入口だが、古くから踏  まれた登山道はしっかりしており、石地蔵が山頂まで導いてくれる。    急坂を登って一息ついたところで、ヤマガラの群が私を取り囲んだ。もの珍  しそうにすぐ近くの枝まで寄ってくる。少し離れたところで、コゲラのギィ  という鳴き声に続いて、カタカタと木をつつく音が聞こえた。登山道にめぼ  しい花は目に付かず、倒木のオブジェにカメラを向ける程度。鳥の声が無け  れば寂しい道だ。
登山道標識
登山道標識
倒木のオブジェ
倒木のオブジェ
 前方が明るくなり、大きなアンテナ施設が現れてこの道も終り。林道合流点  には、下山口と書かれた道標が立っていた。道標越しに、山を削って作られ  た但馬空港の滑走路がよく見える。    山頂まではすぐ。何台かの車が止まっている。高いアンテナを立て、車の中  で無線に夢中の男性、木陰で寄り添う老夫婦、走り回る子供達。それぞれの  山頂。
山頂直下の登山道入口
山頂直下の登山道入口
殺風景な山頂
殺風景な山頂
 567mのピークを踏み、芝生のベンチで東から南にかけて広がる展望を楽  しむ。日本海は少し波立って、白い海岸線が丹後半島に延びている。先週登っ  た依遅ヶ尾山が霞んで見えている。スコープを立てて山頂を覗いてみる。  今日も誰かが、あそこで海を見ているだろうか。    ゆるやかな曲線を描いて円山川が流れ、見慣れた豊岡盆地の風景が広がって  いる。稲刈りが始まり、その跡が点々と見える。そういえば山頂のススキも  穂を伸ばし、汗をかいた肌に感じる風は涼やかだ。暑かった夏もようやく色  褪せて、秋の始まりを感じるひとときだった。
丹後半島を遠望する
丹後半島を遠望する
お馴染みの豊岡盆地
お馴染みの豊岡盆地
 一人で居るのが少し寂しくなって、携帯電話で自宅に電話してみる。いつも  山頂から携帯メールをくれるYさんに、今日は私の方から登頂メールを打ち  ながら、オニギリをほお張った。    目の前に車が入って来て、無粋なグループが弁当とビールを持って出て来た  のを合図に山頂を出発する。無線の男性は相変わらず喋りを続けている。  バッテリを使うのか、ずっと車のエンジンを掛けっぱなしだ。あまりよい風  景には見えない。
ミヤマクワガタ
ミヤマクワガタ
林道脇に沢山咲いてます
林道脇に沢山咲いてます
 帰りは林道をノンビリ行くことにする。時折北の視界が開けて、大きな水平  線が見えるのも良い。いくつかの巨大なアンテナ施設を見ながら、ゆっくり  高度を下げる。    目の前のコンクリートの路上に、大きなミヤマクワガタが居た。手で持つと  もう抵抗する元気を失った個体だった。それでも、ゆっくりと脚を動かして  逃れようとする。道端の木の枝に止まらせて記念撮影。息子へのお土産にと  も思ったが、ここで命を全うするのが似つかわしい。    しばらく下ると、林道脇の到るところにホトトギスの花が咲いていた。腕時  計の高度計を見ると標高は500m近辺。ヤマジノホトトギスだろう。城崎  方面への分岐点に出るまで、この花が目を楽しませてくれた。
クサギの花
クサギの花
来日岳の稜線
来日岳の稜線
 来日の村から上がってくるアスファルト林道に入ると、照り返しのムッとす  る空気に包まれる。西から南へかけての展望のよい林道を、一人テクテクと  歩くのも楽しい。遠く三川山のアンテナ群が見える。ここから見る三川山は、  ずいぶん大きな山塊だ。左に続くのは蘇武岳。秋にはきっと登ろう。  ガードレールの下から、かぐわしい花の香りが立ち昇ってきた。クサギの花  だ。匂いに誘われて、次々に蝶や蜂が飛来する。大きなモンキアゲハがやっ  てきた。夏を終えようとする蝶の翅は、ボロボロに破れていた。  目を上げれば、来日岳の稜線越しに、空は夏から秋に変わろうとしているの  だった。  【 登山日 】2000年9月3日(日)  【 目的地 】来日岳(567m)  【 山 域 】但馬北部  【 コース 】雲光寺キャンプ場起点周回  【 天 候 】曇のち晴  【メンバー】たじまもり単独  【 マップ 】2.5万図「城崎」  【 タイム 】自宅11:20…キャンプ場12:00-12:05(300m)…        山頂12:53-13:16(570m)…(林道経由)…キャンプ場14:33 (括弧内の標高は腕時計の高度計の指示値)