夏鳥の山、来日岳


 山で鳥を観察するのために、重さ395gの小型軽量のスコープ(通称ミニスポ)
 を手に入れた。ニコンのスコープは1Kgちょっとあるが、重い三脚と一緒に
 こいつを山で持ち歩くには、少々くたびれる年代となった。注文中の軽量三
 脚の入荷が待ちきれなく、ミニスポと手持ちの三脚をザックに突っ込んで山
 に向った。
 
 来日(くるい)岳は夏鳥のメッカ。地元のバードウォッチャには良く知られ
 たポイントである。中腹の雲光寺横のキャンプ場まで車を上げて、林道沿い
 に観察をしながら歩くのがお決まりである。山歩きを兼ねている私は、麓の
 集落から昔ながらの登山道を歩いて山頂を目指すことにした。
 
 昨秋、こたじまを連れて歩いたときに止めた空き地に車を入れ、歩き始めよ
 うとした矢先だった。向かいの共同住宅から管理人とおぼしき老人が現れて、
 ここは従業員専用に付き駐車を遠慮願いたい旨を告げた。何の看板も無いの
 が田舎らしいところであるが、知らずに止めたことを詫びて車を出した。
 来日の集落に入った川沿いの道の膨らみに駐車し、村中を通って登山口のあ
 るお寺に向った。赤いトタン屋根のお寺は「観音禅寺」とあり、裏手の墓地
 の先に登山道の道標を見つけた。
 
 砂防堰堤を右に見ながら、一気に高度を稼いで行く。途中、古い鎖が放置さ
 れているが、鎖を使うほど急峻な道でもない。植林の雪害はここも同じ。竹
 薮の手前では倒木が道を塞ぎ難儀する。道端には紫色の綺麗な花が咲いてい
 たが、帰宅後に図鑑を調べても名前はとうとう分からずじまい。ウグイス、
 メジロ、アカゲラ、コゲラに混じって、夏鳥のキビタキ、クロツグミの綺麗
 な歌声が聞こえる。高い周波数でシシシシ…と鳴くのはヤブサメ。鳥仲間の
 間では、こいつの聞き取りが出来なくなると、老化が進行したことになるら
 しい。私は未だかろうじて大丈夫なようだった。
道端には紫の綺麗な花
道端には紫の綺麗な花
古い木と岩の間を登る
古い木と岩の間を登る
 女人堂を過ぎ、水利タンクを越えれば林道に飛び出る。前回はこの入口を見  落して、1時間も余計に林道を歩いて下山したのだった。ちょっとした道標  さえあればと思う。林道はキャンプ場を取り囲む形で山頂へ向うが、山の家  の建物を過ぎてすぐ右上に、登山道の道標が見つかる。山頂まで40分とある。  林道の法面から離れると本格的な山道が始まる。麓から置かれている石地蔵  が相変わらず続き、古い木や岩をすりぬけながらの結構辛い登りだ。時折立  ち止まっては、息を整えながら高度を上げてゆく。    左の梢の中から、ウグイスの囀りがすぐ近くに聞こえる。こちらに気付いた  ウグイスが、ケキョケキョと鳴きながら飛び出した場所が悪かった。私の体  に危うくぶつかるくらいの距離でスクランブルして、右の茂みに消えた。  ウグイスの姿を見るチャンスは少ないが、文字通りのウグイス色の羽根だっ  たことに妙に納得。遠くからホトトギスとツツドリが聞こえ、サンコウチョ  ウの声がそれに混じった。
山頂から見下ろす円山川
山頂から見下ろす円山川
北の樹間からは竹野浜
北の樹間からは竹野浜
 息を切らして登り詰めた登山道の終点は、無粋なアンテナ施設。再び林道と  合流して山頂へはあと僅か。山頂手前の林道脇の大きな木に、なにやら小さ  な鳥が騒がしく飛び回っていた。少し前より、ザックからスコープを出して  三脚に固定して持ち歩いていたのだが、めぼしい鳥を観察するチャンスが無  いままだった。ここで、ようやくまともな観察体制に入る。梢に止まったと  ころをスコープで狙う。夏鳥のコサメビタキだった。体長10cmちょっとの地  味な色合いの鳥だが、クリクリした目が何とも可愛い。スコープにデジカメ  を当てて、何枚か写真を撮った。    山頂では、前回の登山時より綺麗な展望が広がっていた。丹後半島の依遅ヶ  尾山も、はっきりそれと分かる。円山川の流れを見下ろしながら、オニギリ  だけの昼飯を済ませて下山にかかる。先ほどの木では、コサメビタキが相変  わらず賑やかにやっていた。
クリクリお目目のコサメビタキ
クリクリお目目のコサメビタキ
蛾の卵?を食べに来たエナガ
蛾の卵?を食べに来たエナガ
 復路は、のんびり鳥の声を聞きながら林道を歩くことに。エナガがせわしく  鳴き交いながら群れていた。蛾の卵だろうか、枝に付いた白い塊をしきりに  ついばんでいるところを写真に撮る。キビタキやクロツグミの姿を見たかっ  たが、すぐ側で鳴いているのに、とうとう最後までその姿を見つけることが  出来なかったのは残念だった。    キャンプ場まで戻れば、4人のパーティが大きなザックを背負って出発する  ところであった。ひょっとしたら、今晩は山頂泊りだろうか。来日の山頂か  ら見下ろす我が町の夜景はどんな風だろう。山頂まで車が入って、夜ともな  れば怪しげな雰囲気も想像できる山だが、いつかここで一夜を明かしてもみ  たいものだ。    林道のカーブで再び登山道に入り、30分あまりで駐車地点に下山。  夏鳥の声がこだまする来日岳は、もうすっかり初夏の佇まいであった。
来日の集落から見上げる山頂
来日の集落から見上げる山頂
 【 登山日 】99年5月29日(土)  【 目的地 】来日岳(567m)  【 山 域 】但馬  【 コース 】来日集落よりピストン  【 天 候 】快晴  【メンバー】たじまもり単独  【 マップ 】2.5万図「城崎」  【 タイム 】自宅発10:00…来日集落P10:40…登山口10:47…        キャンプ場(350m)11:27…旧道入口11:31…アンテナ施設12:09         …山頂(610m)12:35-12:56…キャンプ場14:15…登山口14:40…         来日集落P14:47        (括弧内の標高は腕時計内蔵の高度計の指示値)                         ○▲▲たじまもり▲▲☆