たんたん国境のブナ林/丹後・高竜寺ヶ岳
 高竜寺ヶ岳は丹後と但馬の国境にまたがる標高697mの山である。しかしなが  ら但馬の人間にとっては馴染みが薄く、もっぱら丹後國の人々により愛でら  れてきた山である。今回、我々家族にとっても、はじめての山となった。  9時半、友人のTakao さんと2台の車で我が家を出る。こたじま/KAOはバレ  ボールの交流試合とかで、今日は山のメンバーには加わっていない。出石か  ら但東町を経由して国道482号を久美浜方面に向かう。道中の神社にはの  ぼりが立てられ、秋祭りの季節である。坂野の集落を見送り、今年開通した  ばかりのたんたんトンネルを越える。トンネルを出たらそこは丹後國。道は  海に続く。  トンネルを出てすぐ、左の脇道の入り口に車を止める。電話ボックスと高竜  寺ヶ岳の道標が目印だ。道路を隔てて広大な空き地があるが、休憩施設の建  設でも予定されているのだろうか。佐濃谷川の渓流沿いにしばらく舗装道を  歩く。手入れされた杉林の中の道はやがて舗装が途切れ、駐車地点からおよ  そ10分でドン詰まり。左手に山道が続いている。登山口の道標には、頂上  まで1.9Kmとある。  ジグザグの急登が続く。マツを中心とした雑木林を喘ぎながら登ると、およ  そ10分で休み石と書かれた大きな石に出くわす。息を整えてもう一登り。  尉ヶ畑(じょがはた)峠に出る。ここまでちょうど30分。峠は古くから丹  後と但馬を結ぶ街道であったようだ。古いお地蔵様が当時の歴史を伝えてく  れる。西にこれから向かう高竜寺ヶ岳の稜線を仰ぎ見る。頂上直下にはブナ  林が広がっており、ようやく色をつけようとしていた。頂上まで1.2Km。  林道を西に向かう。道が下ってゆくので、あわててガイドブックを取り出し  て確認する。林道の分岐をいずれも右にとり、やがて尾根道に戻る。振り返  ると先ほど休憩した峠の白い道標が見え、林道が小さなピークを巻いている  様子が分かった。ここから山頂まで、気持ちの良い稜線歩きが続く。左の但  馬側と、右の丹後側で山の様子がガラリと違う。左手は植林の単調な山肌、  右手は広葉樹が支配的な自然林が続いている。  尾根道にはブナの幼木が目立つ。林の切れ間からは久美浜湾と小天橋の松並  が遠望できる。やがて「ブナの大木」と書かれた道標に出くわす。足下を見  下ろすと、なるほど、立派なブナが大きく枝を広げて堂々と立っていた。樹  齢約250年とある。頂上が近づくにつれ、再び急登が続く。所々に濃厚な  獣の匂いがした。道には動物の足跡がはっきり残っていた。鹿や猪、おそら  く熊も棲んでいるのだろう。そんな話をしていた時だった。「ギャ〜!」  最後尾を歩く妻たじまの雄叫びが山全体に響きわたった。タイミング良く、  とうとう熊にやられちまったか。その声に全員がびっくりして振り向くと、  妻たじまは生きており、指差しながらマムシが出たことを冷静さを取り戻し  つつ語った。な〜んだ。面白いレポートが書けるところだったのに、つくづ  く残念だった。  頂上直下の最後の15分。コースのフィナーレを飾ってくれるのはブナ林だ  った。ブナにすっぽりと包まれながら頂上まで歩く。地上には昨年落とした  大量のブナの実の殻だけがたくさん残っていた。ときおり栗のイガが落ちて  いる場所があったが、ほとんどは実を取られた後であった。1本、ブナのオ  ブジェを見つけた。扇ノ山の変形ブナに比べると、その変形位置がかなり低  い。おそらく積雪量との関係なのだろう。標高500mあたりから豊かなブ  ナ林が発達しているのは、但馬や丹後の低山の特徴ともいえる。この山も、  我々のお気に入りの山の一つになった。  1時間15分の歩行で、高竜寺ヶ岳山頂。東屋もありくつろげる。記念碑の  類が立ち並んで、この山の人気がうかがえた。中にはMTBで登頂の落書き  もあったが、やはり丹後國の登山者の記録が圧倒的だった。この日は我々の  他には誰もおらず、ピークの芝生に陣取ってお昼にする。10万分の1の広  域地図を広げて山岳同定を試みる。もやがかかってさほど展望はよろしくな  いが、丹後の山並みと但馬、丹波のおもだったピークが見渡せた。海の色が  空の色と区別が付かないのが残念であったが、天気に恵まれれば前回登った  磯砂山同様、素晴らしい展望台となろう。山頂には西から2本の別の道が上  がってきている。一本には「高竜寺」の道標があり、山名の由来となった但  東町の高竜寺に続く。その隣の広い道を少し下って調べてみると、久美浜町  の市野々から延びる林道とつながっているようだった。南には反射板があっ  て、但馬側からのこの山を望む時の目印となる。  おにぎりとカップラーメン、インスタントみそ汁で質素ながら賑やかな昼飯。  Takao さんが道中で採取したキノコを図鑑で調べては、そのいくつかを勇敢  にも口にした。残念ながら、我々家族がそれらを試してみる勇気は持ち合わ  せていなかった。彼が今日も無事に仕事を続けていることを祈るばかりであ  る。子供たちと拾った栗を茹でて食べたが、甘くて美味しかった。  山頂でゆっくり過ごしてから、往路を引き返した。途中、「ヒューー」と長  く尾を引く鳴き声を何度も聞いた。鹿が繁殖期を迎えているのだ。はじめて  聞いたという妻たじまはたいそう感激していた。尉ヶ畑峠から少し下って西  に高竜寺ヶ岳を大きく望むと、その姿は実に堂々としていて氷ノ山のシルエ  ットに良く似ていた。山肌を改めて観察すると、赤や黄色が所々に見えて、  里の山はこれから本格的な秋を迎えようとしているのだった。  【登山日】96年10月10日(木)  【目的地】高竜寺ヶ岳(697m)  【山 域】京都府丹後地方  【コース】たんたんトンネル丹後側入り口よりピストン  【天 候】晴れ時々曇り  【メンバー 】Takaoさん、妻たじま、こたじま/YUU、こたじま/GEN、たじまもり  【マップ】「分県登山ガイド25/京都府の山」(山渓)参照  【タイム】自宅9:32 →(但東町経由)→ たんたんトンネル10:12-10:15 → 登山口10:25 → 休み石10:35 → 尉ヶ畑峠10:45-10:53 → ぶなの大木11:05 → 高竜寺ヶ岳山頂11:30-12:52 → 尉ヶ畑峠13:25-13:35 → 登山口13:50 → たんたんトンネル14:00       → 自宅14:45                         ○▲▲たじまもり▲▲☆ ↑ページトップへ