ぶらっと神鍋山へ


 午前中は久しぶりの少年野球の世話役で、子供達と一緒に汗を流した。普段
 使わない筋肉に心地よい疲労感が漂う。昼食後、秋晴れの神鍋山に向かった。
 播州雪彦山で行われている今日の低山徘徊派オフは、さぞや素晴らしい山に
 なったことであろう。懐かしい通信仲間の顔を思い浮べる。途中のスーパー
 で食料を買い込み、走り慣れた道をのんびり走る。植村直己記念公園の森は
 紅葉が美しい。その向こうに蘇武岳がくっきりと稜線を描いている。

 神鍋高原スキー場の表玄関である岩倉ゲレンデの端から、ゲレンデ内のヒュ
 ッテ前まで車を入れる。ヒュッテ前では重機が新しいリフトの組立て工事を
 続けていた。寒がりの私はベンチウォーマーを着込んで歩き始める。ゲレン
 デ内の、工事車を通すための広い道を辿ってのんびり散歩。すぐ上の山頂の
 方でも重機の音が聞こえている。北壁から飛び立つパラグライダーが、カラ
 フルなパラシュートを青い空に浮べては視界から消えてゆく。

 10分も歩けば神鍋山の噴火口跡。火口底までススキに覆われており、今は
 火口という雰囲気はしない。逆光に白く光ったススキが美しい。お鉢の周回
 道には軽石が沢山転がっていて、かつての火山活動を知ることができる。日
 当たりと見晴らしの良い草原に腰を下ろす。
ススキの噴火口
 さっそくカップラーメンのお湯を沸かす。ザックに忍ばせておいたスキット  ルから、ウィスキーが漏れているのを妻たじまが発見。調べてみると下のロ  ー付け部が割れているようで、その部分から滲み出てきていた。これはもう  捨てよう。今は釣り具屋に変わってしまったアウトドアショップで手に入れ  たものだが、これからはちょっとした山道具を揃えるにも苦労しそうだ。  澄んだ空気の中で展望を楽しむ。真西に紅葉を従えた大岡山。この山は、も  はやゴルファーの山ではあるが。その向こうは豊岡盆地を挟んで法沢山、高  竜寺ヶ岳、磯砂山の連山。その右奥に、大江山連峰、三岳が望める。眼下の  ゲレンデの先にはキャンプ場の松林。その中に巨大なピラミッド状の工事中  の建築物が見える。但馬ドームという屋内スポーツ施設だ。これが完成すれ  ば、神鍋高原もますます賑やかになるだろう。
但馬ドーム建設中
 但馬ドームの向こうの大きな山塊は東床尾山を主峰に持つ床尾連山、その右  には粟鹿山の大きな姿が見える。我々が陣取っている斜面の真正面には、名  色スキー場の日の蔭った斜面にパラグライダーが揺れている。稜線を目で追  えば、蘇武岳のピークがあり、その向こうに妙見山も見えているようだ。妙  見山の左に三角形の特徴的なピークを見せている遠くの山は、生野の段ヶ峰  だろう。こうして故郷を高い位置から見渡せば、我々は山に囲まれた狭い土  地に暮らしていることが改めて良く分かる。  ラーメンタイムの後はお鉢の回りを散策。半周したところで今までは何気な  く見過ごしていた石積みの構造物を観察する。昭和37年、ここで遭難した  地元高校生の慰霊碑だった。距離競技で遭難したとあるが、人家に近い、ゲ  レンデからわずか離れたこんなに場所でさえも、自然の脅威は若い命を奪っ  たのだ。そういえば、数年前にスカイバレースキー場で、3名の若者が雪に  埋まって発見された遭難事故も記憶に新しい。  分岐から森へ向かう。以前歩いたときは自然の姿を保っていた小さな森も、  遊歩道が付けられたり、人間が歩きやすいように伐採されたりしている。  栗やアケビを探しながら歩いたほんの少し前の森の姿は、多くの人間にとっ  ては「美しくない」ものなのだろうか。色づいた広葉樹に混じって比較的大  きな松の木があるが、なんと、「松のオブジェ」が結構観察される。ブナ帯  で見られる幹の変形が、400mクラスのこの山ではマツの木に及んでいる  ことを知る。重い雪に捻じ曲げながらも、ここのマツは力強く生き続けてい  る。今日ばかりは、さっそくこたじまたちの遊び道具に早変わり。
松のオブジェ 記念撮影
 山頂はNHKの中継アンテナになっており、三角点を探すが見つからなかっ  た。目の前で重機が森を壊している。前回は沢山の柴栗が採れた場所は跡形  もない。右に折れ、再びお鉢の周回道に戻る。火口を後にして、北壁の稜線  に上がってみる。パラグライダーが次々にテイクオフしてゆくのを眺める。  風を見計らって、まずパラシュートを膨らませる。頭上に膨らんだパラシュ  ートを持ち上げたら、そのまま斜面を全速で駆け降りる。フワっと体が宙に  浮く。面白そうだ。一度で良いから、私も空を散歩してみたいものである。  リフトが回ってパラグライダーの若者や、グラススキー(といっても、プラ  スチックの格子のコースを滑るのだが)が時々登ってくる。スキーコースの  横の長い芝生の斜面では、いつもの調子でこたじま達がゴロゴロ転げ回る。  そばの記念碑を読む。大正13年に神鍋スキー場が開設された由。関西では  いち早くスキー場としてその名を広めた神鍋山。スキー場としてのカンナベ  から、年間リゾートとしてのカンナベが、今はここにある。  【 登山日 】97年11月9日(日)  【 目的地 】神鍋山(409m)  【 山 域 】兵庫県北  【 コース 】岩倉ゲレンデからピストン  【 天 候 】晴れ  【メンバー】妻たじま、こたじま/YUU & GEN、たじまもり  【 タイム 】岩倉ゲレンデP15:15 → お鉢15:25-14:05 → P16:45                         ○▲▲たじまもり▲▲☆