海を見ていた午後/丹後・兜山
 ユーミンが荒井由実だったころの私の好きな曲に、「海を見ていた午後」というの  がある。そんなタイトルをふと思い浮かべた。  土曜の午後、PTAの行事で出かけた妻たじまに頼まれた子供の面倒。昼食後、思  い立って久美浜湾の兜山に行ってみることにした。車で25分。ちょっとしたアス  レチック遊具も揃った甲山園地(かぶとやまえんち)の駐車場に止める。他に一台  いるだけで、見下ろす芝生の園地には子供の声もしない。  車道を少し下って右に遊歩道の案内。昨年の正月、初詣のついでに登って以来だ。  車一台が通るほどのかなりの傾斜の山道を、子供をつれてのんびり登ってゆく。赤  や青の実が下がり、ときおりモズが高鳴きを繰り返す。15分ほど歩いて大文字の  櫓。鉄パイプで組まれた大の字に、一定間隔で油溜の缶が針金でぶら下げてある。  ここに立っている看板によれば、大きさは横37m、縦35m。夏の送り火は、地  元の風物詩となっている。普段は油の匂いが漂うばかりの人工の構造物は、まわり  の風景から一際浮いた存在ではある。ただ、切り開かれた斜面からの展望はよく、  足下の久美浜の街から、兵庫県との県境の山脈がよく見渡せる。  シダの緑が美しい赤土の斜面をしばらく行くと、最後の長い階段道にさしかかる。  階段を登ってすぐ右に「人喰い岩(神石)」と書かれた道標に出くわす。斜面に突  き出た大きな露出岩だ。帰りによってみることにする。階段を登ってゆくと、中年  のご夫婦が道端で岩石の採集をされているのに出くわす。いつまでも夫婦仲良く、  自然観察とはうらやましい。疲れた〜を連発する下のチビに、奥さんの方が激励の  言葉をくれる。「もうちょっと。ガンバレぇ!」  こたじま/KAO が松の木の下でキノコを発見。「お父さ〜ん。これマッタケ?」  「おぉ、どれどれ」、とキノコはさっぱりわかりもしないのに観察。傘を取ってみ  ると、手がネバネバする。ひっくり返すと襞は無くて、スポンジみたい。匂いをか  いでみると、これがちょっとマツタケの香り。「を、マツタケの匂いだ」 子供た  ちが順番に匂いを嗅ぐ。「ほんとだ、マツタケの匂い」 マツタケの香りが染みつ  くほど食わせた記憶は無いが、インスタントの吸い物かなにかの匂いで覚えたのだ  ろうか。これが、本物のマツタケなら最高なんだけど。帰ってから調べて、このキ  ノコが「ヌメリイグチ」という茸であることが分かった。食用だそうだ。  階段道は自動車道に出て、すぐに山頂。神社が祀ってあり、その回りはそこそこの  神社森になっている。神社の側に3等三角点。192mの小さなピークである。  この山の北側の展望は最高である。二階建てのコンクリート製の展望台は興醒めで  はあるが、この屋上からの眺めは素晴らしい。足下の久美浜湾を日本海と分けて東  西につながる松並木。小さな天橋立の意味で、小橋立(しょうてんきょう)と呼ば  れる景勝地だ。夏は海水浴客で賑やかだ。これからの波の荒い季節、サーフボード  をかかえた若者だけの遊び場だ。久美浜湾に浮かぶ沢山の筏は、牡蠣の養殖用だろ  うか。真っ青な空を映した水面を、3つのウィンドサーフィンの白い帆がゆっくり  動いている。日本海の水平線は目の高さにあって、大きな弧を描いて見えている。  北東方向に見える烏帽子の様な特徴的な山容は依遅ヶ尾山だろうか。目の前の空を  トビがホバリングしながら舞っている。我々も今トビの視線になっている。  海からの風はもう冷たい。肩をすくめながら、湧かしたコーヒーで体を温める。お  だやかな海の見える風景。ロマンチックな気分で眺めた遠い昔の記憶を辿ってみる。  そんなナルシスティックな気分を、子供たちのお菓子をめぐる喧嘩の声がぶち壊す。  追い打ちをかけるように、タクシー2台で乗り付けたおばさん観光客6人。かしま  しいことはなはだし。ひとしきり賑やかな山頂となった。  おばさんたちが去って、山はまた静かになった。我々も下山する。東に開けた場所  から、扇状に広がった田園地帯が見える。扇の弧に沿って、青い1両のディーゼル  カーが右から左にゴトゴト行く。山肌には所々に赤や黄色が混じり、里の秋も深ま  りつつある。階段道を下り、「人喰い岩」に立ち寄る。案内板は剥げ落ちて、由来  などは分からずじまい。子供3人と岩によじ登るが、下を覗いて股間が縮み上がる。  (^^; 早々に退去。大文字を過ぎ、梢のカラに見送られながら山を後にする。  駐車場に戻ると沢山の車。園地では遊びまわる子供たちと見守る若いお母さんたち。  こたじまたちはさっそく飛び回り、私は芝生に寝そべってぼんやり眺める。澄み切  った秋の午後の空は、足早に薄暮れがかって行った。  【登山日】95年10月21日(土)  【目的地】兜山(192m)  【山 域】京都府北部・丹後  【コース】甲山園地よりピストン  【天 候】快晴  【メンバー 】たじまもり、こたじま/KAO、こたじま/YUU、こたじま/GEN  【マップ】持たず  【タイム】甲山園地P 14:00 → 大文字櫓 14:15 → 兜山山頂 14:25             15:20 ← (人喰い岩) ←      15:00                            ○▲▲たじまもり▲▲☆ ↑ページトップへ