往く夏、依遅ヶ尾山


ツリガネニンジン
ツリガネニンジン

 春に三川山中腹までカタクリを見に行ったきり、まだまともな山歩きもでき
 ないままに、夏が終ろうとしている。子供達にとっては夏休み最後の週末。
 宿題のことは、まあ、とりあえず忘れて、山を歩いてみよう。厳しい残暑に
 惧れをなして、一旦は決めた行先を、氷ノ山から依遅ヶ尾山に変更した。
 名残りの海を、山の上から眺めてみようと思った。
 
 息子二人を載せ、国道178号を東に向う。砂丘を突っ切る道端には、メロ
 ンや桃を並べる店が続く。網野から海岸線に出ると、ベタ凪の日本海が鏡の
 ように広がっていた。浜辺の賑わいも消え、丹後の海は再び静けさの中に戻
 ろうとしている。間人(たいざ)の町をバイパスするトンネルを抜けたとこ
 ろで右折。左手に依遅ヶ尾山の印象的な山容を望む。
 
 食料の調達を予定していた麓の集落のマーケット、10時の開店までにまだ時
 間があった。仕方なく間人の町まで戻り、見つけたコンビニでパンなどを買
 い求める。麓の要所に設けられた「依遅ヶ尾山」の案内板、息子達が面白い
 ことに気付いた。最初の案内板の矢印の下に「あっち」、次は「そっち」、
 矢畑の集落のはずれにある最後の案内板には「こっち」と書いてある。案内
 板を立てた人の、茶目っ気が伝わってくる。登山口には10時丁度に到着。
カマキリ
カマキリ
丹波のたぬきさんに名前を教わりました
センニンソウ
 むっとする熱気の中を歩き始めれば、夏草の生い茂る道端に秋の気配も感じ  る。ミンミンゼミとツクツクボウシの声が交じり合う中、暗い植林を抜ける  と一斉にブトが顔にまとわりつき、いつまでも離れずに鬱陶しい。  「そこを曲がったところに、タヌキの溜め糞があるはず」、先頭をゆく息子  たじま/YUUに声を掛ければ、正しくそこに糞の山が現れた。タヌキの奴も律  義である。傍らにヘクソカズラの花が咲いていたのはご愛嬌。    吹き出した汗が滴り落ち、足取りが重くなる頃に途中の休憩所に到着。木の  ベンチに腰をおろし、水分を補給して出発。しばらく急な上りが続き、ペー  スの上がらない私を先頭の息子が気遣ってくれる。道々に、ツリガネニンジ  ンの青い釣鐘状の花が美しい。
クズ
クズ
ツクツクボウシ
ツクツクボウシ
 カサカサと音を立てて、ツクツクボウシが枝から落下してきた。短い地上で  の命を全うしようとしている。こたじま/GENが綺麗な鳥の羽を見つけて持っ  てきた。カケスの羽だろう。青と黒の縞模様が美しい。彼の赤いキャップに  付ければ、お洒落なアクセントだ。    頂上直下で道は平坦になり、しばらくアカマツ林を進む。ここではエゾゼミ  の声が目立って聞こえる。「バリカンのような鳴き声だろ?」、昔、山で私  が父親に教わったことを、今は私が自分の息子に伝えている。最後の短い急  登を登り切って山頂。この山がお気に入りになったのは、このラストシーン。  飛び出た山頂越しに広がる大きな水平線。海岸べりの独立峰ならではの、  ダイナミックな風景がご馳走の山だ。
カケスの羽
カケスの羽
ゴマダラカミキリ
ゴマダラカミキリ
 今日の海は、晩夏の名残る暑さを揺らめかせながら、ぼんやりと広がってい  た。沢山の蝶が尾根を越えてゆく。ゴマダラカミキリが息子たじま/YUUのズ  ボンに止まった。スズメバチがジョロウグモを脅している。その横で、別の  ジョロウグモが網に掛かった獲物を糸でグルグル巻きにしている。チクワと  菓子パンをかじりながら、そんな生き物たちの姿を観察した。ところでチク  ワだが、案外腹持ちのよい食材であることを認識。行動食にも良さそうだ。  来た道を戻れば、途中でお昼のサイレンが聞こえた。こんな時刻に下山する  のは、我々のいつもの山歩きには無い画期的なことだった。途中の休憩所で  単独の中年男性に出会った。登山口に戻って車のドアを開ければ、溜まった  熱気で蒸し風呂のようだ。タオルで汗を拭い、弥栄町の「あしぎぬ温泉」に  向かった。
山頂から東の海を望む
山頂から東の海を望む
先ほど居た山頂
先ほど居た山頂
 【 登山日 】2000年8月26日(土)  【 目的地 】依遅ヶ尾山(540m)  【 山 域 】丹後半島  【 コース 】丹後町矢畑経由、登山口Pよりピストン  【 天 候 】晴  【メンバー】息子たじま/YUU、こたじま/GEN、たじまもり  【 マップ 】分県登山ガイド25「京都府の山」(山と渓谷社)参照  【 タイム 】自宅8:30…登山口10:00-10:05(170m)…休憩所10:38-40(340m)        …山頂11:08-11:42(530m)…休憩所12:05…登山口12:30 (括弧内の標高は腕時計の高度計の指示値)