大段ヶ平のアカゲラ観察は、結局2時間半も粘ってしまった。その間、ずっ
とスコープに張りついていたものだから、もうこれでヨシと納得したときに
は、この後氷ノ山山頂を目指そうなどという気も、すっかり萎えてしまって
いたのだった。それでも、車に戻ってオニギリを2つ食べ終わる頃には気力
も復活。登山靴に履き替えて山道に入った。時刻は13時30分。16時ま
でには下りてこられるだろう。
大段ヶ平から山頂にアプローチするのは実に8年ぶり。当時3歳だった末っ
子を連れて歩いたことが、懐かしく思い出される。遅いスタートに、歩くペー
スも自然と上がる。先ほど見た、「クマに注意」の看板のプレッシャーもあ
るのだろうか。チシマザサとブナの道を黙々と歩く。
クマ注意の看板
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林床にはギンリョウソウ
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ブナの陰にギンリョウソウが目に付く。登山路には昨秋落としたブナの実が
沢山落ちていて、その脇にはホウチャクソウや、ユキザサの白い花が咲いて
いる。息を切らせて大屋町避難小屋を通過。駐車場から20分。さらに15分歩
いて神大ヒュッテ横に出る。今晩誰かがここに泊まるらしい。窓が開いてい
て煙が外に漏れていた。
休憩無しにそのまま山頂を目指す。土曜日であるが、梅雨時期とあって山に
入っている人は少ない。すれ違う人もまばらだ。ご婦人が立っておられて、
道脇のチシマザサの藪の中からはガサゴソ音がする。「取れた?」「もうち
ょっと」などと会話を交わしている。もちろんお目当てはスズノコであるが、
何年か前に山仲間の萬屋さんとスズノコ登山をしたときの、彼の口から出た
名言を思い出して独り笑いしてしまった。彼はこう言い放ったのだ。
「スズノコ採りは、道を失う前に、理性を失いますね」
ホウチャクソウ
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ユキザサ
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ガスっぽい空の向こうに、鉢伏高原が見える。先週、高原訪れたときは沢山
の小中学生で一杯だったが、今日も自然学校の団体さんであふれているのだ
ろう。山頂小屋が見え、時計を確かめる。ジャスト1時間で三角点を踏みた
くてラストスパート。14時30分、山頂着。
山頂ケルンで2名の男性が談笑。やが一人が下山した。すっかりぬるくなっ
たビールを空けながら、ブン回し尾根を見渡す。西からガスが上がってきて
は尾根を超えてゆく。扇ノ山も雲の中だ。展望は無いが、実に静かな氷ノ山
山頂。ツツドリやコマドリの囀りがガスの中から聞える。
ケルンの男性と話をする。朝7時半に鉢伏高原を出て、鉢伏山からブン回し
を歩いてきたという。山頂小屋で一泊のつもりだったが、まだ早いので下山
を決めたとのこと。会話が終わると、彼は東尾根に向かって行った。一人っ
きりの山頂、徳をした気持ちになって、鳥取県側広場の休憩施設の工事現場
を視察。と、プレハブの飯場の窓から男性が顔を覗かせた。どうやらここに
住みこみで工事が続いているらしい。鳥取県の手によるトイレ付の休憩施設。
すっかりキジ撃ち場と化した古生沼の保護のためにも、役だってくれること
を願いたい。しかし、汚物はどのように処理されるのだろうか。気になる。
山頂直下から見る鉢伏山
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トイレ付休憩所の建設中
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下山を開始したのと入れ替わりに、軽装の登山客が3名上がってきた。私と
同じく、大段ヶ平からだろう。山頂にトイレ付施設が出来ると、こういった
登山者の数もまた増えてゆくのだろうし、それに比例する形で心無い人の数
も増える。氷ノ山の未来は決して明るくは無いなあと感じながら、久しぶり
に古生沼の様子を見に行く。
驚いた。関宮町による立入禁止の柵があった。柵と言っても、登山者の良心
に訴えるばかりの簡素なものであるが、ここを便所と勘違いして糞尿を垂れ
まくる不届き者へのささやかな警告である。後で関係者に聞いた話ではある
が、つい最近、古生沼一帯で「ティッシュ拾い」作戦が展開されたとのこと。
また、次の日曜日には、環境保護を訴える看板が有志により立てられるとの
ことだった。困ったことになってきた。
立入禁止の柵越しの古生沼
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湿地に生えるマイヅルソウ
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神大ヒュッテから大段ヶ平に向かいながら、道端に残っていたスズノコを採
ってはズボンのポケットに入れた。駐車場に着いたときには10本あまりの
スズノコがポケットを膨らませており、家族へのよいお土産となった。
アカゲラの巣はすっかり静まり返って、ひょっとしたらあれから巣立ちした
のではないかと思ったりした。しばらく待ってみたが、親鳥が帰ってくる様
子もなかった。車に戻って残っていたイナリ寿司を食べてお腹を満たした後、
横行渓谷に車を下ろした。村に入る前に「ぶなのしずく」と書かれた、清水
の汲める場所がある。ボトルのお茶を飲み干して、美味しいブナの水をもらっ
て帰路についた。
まだ残っていたスズノコ
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横行渓谷の「ぶなのしずく」
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【 登山日 】2001年6月16日(土)
【 目的地 】氷ノ山(1510m)
【 山 域 】因但国境
【 コース 】大段ヶ平Pよりピストン
【 天 候 】曇り
【メンバー】たじまもり単独
【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」
【 タイム 】自宅9:20…大段ヶ平P(1085m)10:55-13:30…
大屋町避難小屋(1230m)13:50…神大ヒュッテ(1340m)14:05…
山頂(1500m)14:30-14:55…神大ヒュッテ15:15…
大屋町避難小屋15:28…大段ヶ平P15:50
※括弧内の標高は腕時計の高度計の指示値
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