深まる秋、快晴の氷ノ山


標高1300m付近のブナ


 布滝キャンプ場登山口は、沢山の車と出発の準備をするグループであふれて
 いた。まだ日の射さない暗い谷間から、急角度に立ち上がる斜面を見上げれ
 ば、赤と黄色の山肌が真っ青な空を縁取って、布滝頭の稜線へと続いている。
 前日までの雨で、谷の水量はずいぶん多い。木橋で渓流をまたいで、斜面に
 取り付く。前にも後ろにも登山者がいて、せかされるように足を進める。展
 望所に立ち寄り、盛大に水を落とす布滝を見上げてから本格的な歩きに入る。

 あずき転がしの登山道は、まさに紅葉のまっさかり。左の谷越しに射し込む
 光に、色づいた葉が美しく輝く。何度もカメラのシャッターを切りながら高
 度を上げる。難所「あずき転がし」のルートは完全に封鎖されたようだ。
 ロープと立て看板が、登山者を右の迂回路へと導く。歩き始めて40分、地蔵
 堂を通過。順調なペースだ。
あずき転がしの紅葉
あずき転がしの紅葉
 何組かのパーティを追い越した。ほとんどが中高年と呼ばれる年代の人達。  みなさん良い登山用品を持っておられる。特にトレッキングポールは、完全  に定着した感がある。氷ノ山越までの間、いくつかの水場を過ぎる。どこも  充分な水が流れていた。手のひらで水をすくって喉を潤す。下から1時間半  あまりで氷ノ山越着。鳥取県側の展望を峠越しにチラと望んで、人の多いこ  の場所を通り過ぎる。  稜線のブナ林は、すでに葉を落とした後であった。それでも登山道脇の一本  が黄色の葉を残していて、目を楽しませてくれた。この時間帯になると下山  のパーティも増えて、すれ違うたびに何度も挨拶を繰り返さねばならなかっ  た。単独の登山者で、ラジオを鳴らしながら歩いている人とすれ違ったが、  熊除けにしては無粋であるし、単にラジオを聞くのが好きならイヤホンでも  すればよいのにと思う。  ブナ林からの急勾配を登り切ると、氷ノ山山頂が目の前にドーンと迫ってく  る。山頂の下には、出ベソのようにコシキ岩が盛り上って見えている。仙谷  分岐を越えてコシキ岩直下へ。初老の登山グループの3人が、リーダらしき  人に導かれてコシキ岩直登に向かい、私もその後に続く。上から爺さんが落  ちて来たらまずいなあと、先行の動きに合わせて体を引き上げた。
稜線のブナ林
稜線のブナ林
山頂とコシキ岩
山頂とコシキ岩
 次々にコシキ岩に人が立ち、ちょとしたラッシュになる。ここからの風景を  眺めるのも、ずいぶん久しぶりだ。鉢伏山から延びたブン回し尾根が大きく  弧を描いて足元まで続き、稜線の下から麓に向って山肌が紅葉に染まってい  る様子が見渡せる。先日歩いた扇ノ山もよく見えている。西の空を遠望すれ  ば、雲の稜線上に蒼いシルエットとなって大山が見えていた。
ブン回し尾根パノラマ
ブン回し尾根パノラマ
 コシキ岩から笹薮をわけて登山路に戻り、だだっ広いだけの階段道を登り切  ると賑やかな山頂。下から2時間半。独りだと早い。尼工ヒュッテの西側に  場所を見つけて腰を下ろす。お湯を沸かす間に、出掛けに妻たじまが握って  くれたオニギリを頬張る。  目の前のはるか遠くに、相変わらず大山が見えている。双眼鏡で覗いてみる  と、大山のごつごつした山襞が、シルエットの濃淡となって確認できる。  双眼鏡の接眼レンズにデジカメを当てて、即席8倍望遠モードで撮影を試み  る。なかなかうまく撮れた。  さて、私の横に中年ご夫婦が座り、ストーブに火を付けた。ザックの上には  エノキ茸、ネギ、豚肉などが並べられて、なにやら豪勢な料理が始まるよう  だった。私がカップラーメンを食べ終わる頃、隣で煮込みうどんを啜る音が  して、野菜の煮える美味しい匂いが漂った。
賑わう氷ノ山山頂
賑わう氷ノ山山頂
双眼鏡で見た大山
双眼鏡で見た大山
 山頂から山仲間二人に携帯メールを飛ばす。今日は仕事の二人、職場の窓か  ら青空を恨めしく思っているだろうか。風も無く絶好の登山日和の氷ノ山山  頂には、次々に人々が到着しては喜びを分かち合っている。賑わう山頂を後  に、東尾根に向って下山開始。  神大ヒュッテは、入口側に広いデッキが作られていた。ヒュッテのドアが開  いていて、今日は誰かがここを利用しているらしい。歩き始めてすぐ、二十  数年ぶりにヒュッテの中を覗いてみればよかったと後悔した。登り返せばよ  かったのに、ちらっと後ろを振り返って見るだけだった。
デッキが付いた神大ヒュッテ
デッキが付いた神大ヒュッテ
東尾根のブナの紅葉
東尾根のブナの紅葉
 いつもは人の少ない東尾根の道も、今日は沢山の人が入っている。稜線の紅  葉が見頃である。このあたりの標高のブナは、まだ黄色い葉を付けていたし、  尾根筋のドウダンツツジの真っ赤な葉も美しい。ちょうど歩く背中から午後  の光が射し込み、目の前の紅葉が一際鮮やかに輝いた。  東尾根避難小屋まで、紅葉の尾根歩きを堪能した。避難小屋は今年になって  ようやく建て替えられたようだ。ペンキの匂いの残る小屋の横のベンチで一  服した後、尾根からの階段道を下りて行った。
ドウダンツツジの赤
ドウダンツツジの赤
新しい東尾根避難小屋
新しい東尾根避難小屋
 植林の切れ目から、西日を引いた東尾根の急斜面が見えた。逆光の暗がりの  中に沈んだこの斜面は、いまもっとも美しく彩られている。スキー場のスス  キが揺れ、その間から鉢伏山の稜線がくっきり見えていた。    東尾根登山口から舗装林道を30分歩いて、布滝キャンプ場に戻る。  14時30分、山頂から約2時間。もう少しゆっくり歩けばよかった。  谷間から見上げる狭い空は相変わらず青く、傾いた日の光に、山の色がいっ  そう赤くもえたった。
逆光の東尾根斜面
逆光の東尾根斜面
鉢伏山の稜線
鉢伏山の稜線
 【 登山日 】2000年11月4日(土)  【 目的地 】氷ノ山(1510m)  【 山 域 】因但国境  【 コース 】あずき転がし〜東尾根周回  【 天 候 】快晴  【メンバー】たじまもり単独  【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」  【 タイム 】自宅8:00…布滝登山口(680m)9:04-9:10…地蔵堂(955m)9:50…        氷ノ山越(1125m)10:35…仙谷分岐(1235m)(11:10)…        山頂(1525m)11:35-12:25…神大ヒュッテ(1400m)12:45…        東尾根避難小屋(1065m)13:35-43…東尾根登山口(855m)14:00        …布滝登山口(725m)14:30