布滝駐車場には10台あまりの車があり、結構な人が山に入っているようだ
った。道を挟んだ空き地にはマイクロバスが止まって、20名あまりの団体
が出発しようとしていた。この空き地に車を入れ、支度を整える。
堰堤上の石河原を超え、沢を渡って山道に取り付く。今日の山歩きに、嫌々
付いて来たこたじま/GENのザックには、水1リッターに加え、来る途中で買
い込んだ食料が入っている。荷重は5Kgくらいだろうか。高度を上げるに
つれて口数が減り、いつもの様子ではない。ちょっと荷物が重かったか。
後続の何人かの登山者に追い越され、我々も先行の20人団体のしんがりを
追い越しながら地蔵堂を通過。かつてここから入った難所「あずきころがし」
へのルートは、夏草ですっかり塞がれてしまっていた。転落事故以来、通行
禁止となって久しい。辛そうなGENを激励して、少し先の水場まで登って
から最初の休憩とした。
荷物を降ろしておやつを口にすると彼は途端に元気になり、沢の中を覗き込
んでイモリや細長い針金のような虫がヒョロヒョロ水中を蠢いているのを観
察しては声を上げた。沢沿いにはツリフネソウが沢山咲いていて、買ったば
かりの新しいデジカメの最初の被写体になってくれた。
ツリフネソウ
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ギンリョウソウ
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ここから稜線までの間がいつも長く感じられるのだが、今日は沿道の花や虫
たちがが楽しませてくれる。様々なキノコも出始めて、路上の所々に栃の実
や緑の栗のイガが転がっていた。山は秋支度、夏鳥の声もすっかり消えた。
ギンリョウソウ、ツルリンドウ、キバナアギリなど、目に付いた植物を撮影
しながらボチボチ登る。ヤマジノホトトギスを撮っているとき、ひとりの青
年が登って来て氷ノ山越までの所用時間を尋ねた。やたらと人懐っこく、ペ
ラペラよく喋る男だった。「ここからだと、10分から15分じゃないかな」
「ペラ夫」君は元気よく登って行った。
先ほどホトトギスの名前をGENに教えてやったので、復習テストをやって
みる。「この花は何だっけ?」 彼はしばらく考えて答えた。「ウグイス!」
ガクっと来ながら、それでも鳥にちなんだ名前であったことだけは記憶して
いたようで、笑いながら訂正してやった。
ツルリンドウ
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キバナアギリ
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12時丁度に氷ノ山越に出る。ベンチでは初老の男性が弁当を広げ、先ほど
の「ペラ夫」君と何やら話をしていた。隣のベンチで我々もオニギリを食べ
ることにする。「ペラ夫」君は山頂までの所用時間を私に確認してから登っ
て行った。隣の男性と会話を始める。下で会った20人団体の一人だという。
今日は体調が悪く、一人ここで引き返すらしい。宝塚にお住まいとのことだっ
たが、但馬の山々をよく歩いておられ、話が弾んだ。会話を続けながら、フ
ワフワと側を飛ぶアサギマダラが気になった。
鳥取県側の舂米(つくよね)から、一団体が賑やかに上がってきたところで
腰を上げる。山頂まで残り1時間。荷物も軽くなったGENはすっかり元気
を取り戻したようだ。私はと言えば、あずきころがしの途中から、左膝が痛
み始めている。歩くのに少し苦痛を伴う。
氷ノ山越にて
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ブナ林を行く
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ブナ林の手前でマムシに遭遇。その後下山までに、3回ほど別の種と遭遇す
すことになったが、相変わらずこの山にはヘビが多い。下山してくるパーティ
と次々にすれ違う。ブームを反映してか、圧倒的に中高年が多い。ブナ林を
過ぎ、急坂を膝をかばいながらゆっくり登る。登り切った小ピークからは、
鉢伏山まで続く尾根が大きな弧を描いて見えた。行く手にはコシキ岩の出っ
張りと、その上に山頂避難小屋の三角屋根が望めた。
今回はコシキ岩を登るのはパスした。最後の階段を登れば賑やかな山頂。昨
年11月に次いで、こたじま/GENと二人で兵庫県最高峰に立つ。吹き上がる
風が少し冷たい。扇ノ山が正面に見える位置に腰を下ろし、お湯を沸かして
ラーメンを啜る。鳥を観察しようとザックに入れてきた40倍のスコープをセッ
トし、扇ノ山山頂を覗いてみる。見慣れた避難小屋や、登山者の姿が見えた。
少し左にパンすれば鳥取市街地が見えた。残念ながら、大山は霞んで見えな
い。
山頂広場で登山グループの写真撮影係を頼まれているのは「ペラ夫」君だ。
あいかわらず忙しく口が動いている。さて、所持していない私には今のとこ
ろ興味対象外であるが、山頂から携帯電話をかけている親爺がいたので、こ
こからは通じることを記しておこう。眼下の鉢伏高原と背景の但馬中央山脈
を展望してから、我々も下山にかかる。
山頂にて
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眼下のハチ高原
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神大ヒュッテから東尾根に向う。前後には人影も無く、鳥の囀りもほとんど
聞こえない山道は寂しい。(鳴き声を認識できたのは、メボソムシクイ、
アカゲラ、カケス、アマツバメくらい) 静かな山道を、ぬかるんだ場所で
GENが何度か尻餅をつく以外はただ黙々と歩く。突然、「ウンチがしたい」
とGENが言いだしたので、野糞の爽快感を伝授すべく促すが失敗に終る。
下のトイレまで我慢するらしい。やがて林道を走るバイクの爆音が聞こえ、
左の樹間越しにスキー場が見え隠れした。1時間20分ほど、休憩無しで歩
き通して東尾根避難小屋に到着。
ベンチでコーヒーを沸かし、人心地ついてから最後の下りにかかる。長い階
段道は、東尾根からの高度を一気に下げながら登山口に続く。ツリフネソウ
が再び目に付くようになり、ススキの若い穂が西日に輝く。フシグロセンノ
ウの橙色が一際目を引く。林道に飛び出せば、立派な登山口の石碑が新しく
建っていた。すぐにトイレがあったので連れてゆくが、蝿が多いから嫌だと
ぬかす。この段階で、彼の便意は自然に収まったらしかった。
東尾根を行く
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フシグロセンノウ
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林道を少し歩いて、スキー場のレストハウス前で休憩。冷えたコーラで喉を
潤しながら、自宅の妻たじまに下山の電話を入れる。ほどなくして下りてき
たのは「ペラ夫」君。初めての氷ノ山だったが、遊歩道を歩いているようで
物足りなかっただの、頼みもしないことをペラペラ話し出す。大阪からやっ
て来て、これから奈良尾のバス停に向うのだという。下山路を教えてやって
別れた。
車に向う林道の下に、ツキノワグマ捕獲用の檻を見つけた。檻の奥にはハチ
の巣があった。熊が好物の蜂蜜を求めて、この檻に入ったところを捕獲する
仕掛けになっているらしい。今年も、すでに但馬のあちらこちらで熊が目撃
されている。山の中も随分と棲みにくくなってきているのだろうか。
夕闇が迫りかけた駐車場には私の車が残っているだけであった。疲れた体を
シートに沈めて、鉢伏の民宿街をゆっくり下れば、無事バスの時間までに下
り終えた「ペラ夫」君の後ろ姿を見つけた。追い越しざまにクラクションを
鳴らそうとしたが、うまく鳴らずに過ぎてしまった。関宮の酒屋で、銘酒
「関のみやび」を土産に買って家路についた。
登山口直前のススキ野
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熊用の捕獲檻
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【 登山日 】99年09月05日(日)
【 目的地 】氷ノ山(1510m)
【 山 域 】因但国境
【 コース 】あずき転がし〜東尾根
【 天 候 】曇り時々晴れ
【メンバー】こたじま/GEN(小4), たじまもり
【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」
【 タイム 】自宅8:53 → 布滝キャンプ場P10:06 → 布滝展望所10:19 →
地蔵堂10:46 → 氷ノ山越12:00-23 → 山頂13:24-14:04 →
東尾根避難小屋15:28-43 → 東尾根登山口16:07 →
布滝キャンプ場P16:57
○▲▲たじまもり▲▲☆
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