かなり不安要素を抱えて挑んだ氷ノ山。しかし、登山道はなだらかで優しく、 そしてそこで出会った人たちも暖かかった。 というわけで、快晴の氷ノ山の山頂で、29年の人生で初めてヒーローになった 男の話の始まりです。 ************************************************************************ 【日 時】1998年11月8日(日) 【目的地】氷ノ山(1510m)兵庫県波賀町・関宮町・鳥取県若桜町 【行 程】[ ]は腕時計に内蔵の高度計からの標高データ(単位:m) R29兵庫県波賀町戸倉〜<坂谷林道(8km)>〜殿下コース登山口[1280]13:10 … 13:35三の丸[1575]13:40 … 14:35氷ノ山山頂[1595]15:03 … 15:33三の丸15:35 … 15:55殿下コース登山口 【天 候】快晴\(^O^)/ 【メ ンバー】はいかい(単独) 【地 図】昭文社 山と高原地図59 氷ノ山 鉢伏・神鍋 (5万分の1) ************************************************************************ 9時起床。昨日は飲み会で、午前様だ。眠い。でも2次会のカラオケは良かっ たなぁ。ちょっと、弾いてみるか。 『人の世に愛がある 人の世に夢がある この美しいものを守りたいだけ 今日もどこかでデビルマン 今日もどこかで デビルマぁン』 (「今日もどこかでデビルマン」 作詞:阿久悠) あぁぁぁぁぁぁっ!夢中でギタレレ(ウクレレとギターの相の子の楽器)弾いて 歌っていたら、こんな時間になってしまった! 午前10時、丹後を出発。 兵庫県の養父町から大屋町(未だ鉄道も国道もない)を西に抜けて、R29にぶち 当たり、鳥取方面に少し行って戸倉スキー場を越えた辺りで、北に向かう坂谷林 道にはいるわけだが(ツーリングマップルp19、または旧ツーリングマップp127参 照)、この林道8kmが凄かっただった。こぶし大の石がごろごろ、水が流れて掘 れた深い溝で、揺れる揺れる。往復とも、2度ほどカリブの腹を打ってしまった。 やっぱり、次はジムニーだな。けど、巨神兵(風の谷のナウシカ)のような顔のジ ムニーは嫌だ。中古しかなかろう。当分先の話だが。 特に最初の2kmほどが強烈で、睡眠不足、遅い出発時間、そして単独、という 不安要素が頭の中で交錯する。「こんなんで、事故でも起こして怪我したら言い 訳できんなぁ。それに今日は天気もいいし、登山者もたくさんいるだろうなぁ。 もしかしたら、MTBを見て『こんなもの山に持ち込むんじゃない!』と起こられ るかも知れない。慎重な人なら、日を改めるだろうなぁ。」 もしこれからさらに 何か不利な条件が現れれば、いつでも引き返すつもりでクルマを進める。 とはいえ、カリブを進めていくと、クロカン4WDのクルマに混じって、路肩に (登山者のかな?)カリブの僕のと同じ型の旧モデルと現行モデルがそれぞれ(別 々の地点に)止めてあったりして、カリブならいける、と思ってどんどん進んで しまった。挙げ句の果てには、クレスタが前方からやってきた。そのうち、路面 もましになり、とうとう登山口までついてしまった。国道から、30分以上かかっ ている。 登山道は、取り付きが急斜面だが、腕時計によりぐんぐんと標高を稼いでいる ことが確認できるので、精神的には楽だった。なんせ、登山口で標高1200mなの だから、知れている。 勾配が落ち着くと、あとは楽勝だった。緑の笹の中を、真っ青な空に向かって 道が延びている。 三の丸のピークからは、山頂が見えた。距離は少しあるが、標高差はそれほど ない。そこにいた登山者に「カメラのシャッターを切って欲しい」と頼まれたのを 幸いに、あとでこちらも山頂をバックに自転車と共に写真に収まる。 そのあとは、乗車することもできた。登りでも、全行程の3分の2ほどは押し、 3分の1ほどは乗車できた。あとごくわずか、だけ担ぎはあったが。 去年の6月に高竜寺ヶ岳に登ったとき、道中出会った中高年の登山者達に「自 転車もって登るなんて凄い!」と言われて、有頂天で登ってしまったが、今日は さらにそれを上回ってしまった。 時刻が時刻だけに、下山してくる人とすれ違いながら登る。今日は弱気なので、 登山者がやってきたらすぐにMTBを道の脇に寄せる謙虚ぶりも功を奏したのか、 すれ違う登山者も暖かく「凄いね」「こんなのところでも走れるの?」「息子もMTBや っているんだよ」なんて声をかけてくれた。また、すれ違った若い女性が、ハン ドルバーに取り付けてある、ピカチュウのベルを見て「カワイイ!」といってくれ て、さらに図に乗る。 なだらかな道を押していくと、何となく山頂に着いた。最後の100mは、乗車だ。 山頂では、中高年の男の人三人のパーティーと、家族連れのパーティがなんだ か異様にMTBを気に入ってくれて、「凄い!」「初めて見た!」「真似できん!」「足が 太い!」「腕も太い!」「腹も出とる!」「驚いた!」「うひょー!」「富士山も登れ!」 の波状攻撃。こちらが頼む前から、「カメラのシャッター押してやろうか?」。さ らに、自分のカメラを持ってきて「一緒に写真に写ってくれんか」。挙げ句に僕の MTBを担いで写真を撮ったり、またがって写真を撮ったり、そのまま山頂をぐる ぐる乗り回してみたり。とうとう、「なんか食べて」と次々食べ物を差し出されて しまった。 中高年の男性三人組は、姫路の二人組と、関東からの単独行の人との即席パー ティだった。たまたま、氷ノ山を目指しながら、間違えて隣の鉢伏山に行ってし まったことが縁でそのまま一日を共に過ごしているそうだ。梨と柿をいただいた。 家族連れは、どこから来たかは聞かなかったが、「山口で買ってきた」という蒲 鉾をくれたのと、訛りから、そちら方面の人らしいと推測できる。 「こんなにちやほやされて、自転車が喜んでますよ」といいながら、実は一番上 機嫌なのは私。 MTBと私が現れてから、前出の2パーティの間でも会話と、食べ物の交換が始 まった。なんというなごやかムードだろう。 悪魔でさえも正義の味方、正義のヒーローに変えてしまう“人の世の愛”。不 安要素いっぱいだった私だが、すっかりヒーロー気分になってしまった。あらら、 まだ昨日のカラオケが残っているな。 紅葉は今ひとつだったが、快晴でとても空が青かった。睡眠が不足していた状 態では、注意力も、判断力も、反射神経も鈍っているので、下りでもチョー弱気 の走りとなった。怖いと思えるところは当然、普段なら「よし、チャレンジ!」と 思うところでも降りて押した。無事故が第一である。それでも登山道は適度な勾 配で結構乗れた。 ちなみに、登山地図によるコースタイムは登りが2時間20分、下りが1時間40 分。登りも下りもその60%くらいで行けた。 最後に、何と言っても事故なく帰れて良かった。 ☆丹後の國☆CXJ03743@nifty.ne.jp《はいかい》 HomePage【電脳徘徊】http://www.geocities.co.jp/Colosseum/3519/ |