秋満喫、ひさしぶりの氷ノ山


 ちょうど4年前、横行渓谷から上がってきたPLUTO さんと山頂避難小屋で一
 泊して以来、氷ノ山のピークを踏むことがないまま過ぎた。行こうと思えば
 いつでも行けたはずだったが、ここ数年間は山歩きそのものから遠ざかって
 いた。ここのところ、山を歩くことの楽しさが蘇ってきた。弱った足腰が、
 今こそ鍛えてくれといわんばかりに、毎週のように私を山に押しやるのだ。
 
 前日から、明日は氷ノ山と決めていた。朝霧のおりなかった朝の景色が、曇
 った空の下にあった。天気予報では、どうやら雨にはならないようであり、
 渋るこたじま/GENを無理矢理連れ出した。こたじま/GENを連れて大段ヶ平か
 ら歩いたのは5年前、彼が3歳の時だった。今日は、小学3年生に成長した
 彼にとって、初めての本格的な氷ノ山登山となる。 かつて、小学1年生の
 こたじま/YUUを連れて歩いた、あずき転がしから東尾根を巡る一周コースを
 歩くことにした。
 
 9時半過ぎ、布滝キャンプ場の駐車場にはすでに沢山の車が入っており、紅
 葉狩りの登山者で今日の氷ノ山はたいそう賑やかな様相。見上げる山肌は紅
 葉の真っ盛り。あいにくの天気でその色がくすんでいるのが残念だ。谷を詰
 めた布滝頭の稜線は雲の中。
 
 布滝キャンプ場の八木川の惨めな姿を見、多田ケルンに敬意を表してから山
 に入る。砂防ダム上のかつてのキャンプ場は、土砂に埋まって使い物になら
 ない。木橋を渡り、いよいよ登りが始まる。
キャンプ場の八木川の様子
キャンプ場の八木川の様子
多田ケルンにて
多田ケルンにて
 程なく、右手に布滝が姿を現す。細く長く流れ落ちる白い飛沫が、紅葉の中  で一際美しい。布滝の音を右に聞きながら、ここからぐんぐん高度を上げて  ゆく。やがて左の谷を眼下に望み、くの字滝、その上部に不動滝の一部が見  える。    あずき転がしのルートはロープで閉鎖されており、迂回路を通行する旨の指  示があった。かつてこたじま/YUUと辿った時は何の規制もなく、あずき転が  しのちょっとスリリングな道を登った。中高年登山者の転落事故が相次いだ  ことから、今も通行止めが続いているようだ。
布滝
布滝
不動滝の谷
不動滝の谷
 出発して50分、地蔵堂を通過。下山時はここから入るあずき転がしへの道  も、ロープで規制がしてあった。鉄砲水の爪痕を残す杉林を抜けると再び自  然林の明るい道。水場を越えたところで休憩タイム。「氷ノ仙のルーツを探  る会」の手による、トウロウ岩への案内板がある。地図上に記されたトウロ  ウ岩までここから1時間、岩から山頂まで1時間で行けるそうだ。説明によ  れば、かつての修験道の道だったようだが、今では赤テープ頼りのマニアッ  クな道を想像した。    紅葉を楽しみながら、氷ノ山越を目指す。白い空が次第に近くなり、「弘法  の水」「一口水」と名付けられた小さな水場を過ぎて、ようやく峠に到着。  地蔵の裏では、オバサマ方が早くも賑やかなランチタイム。避難小屋の前で  は、途中で我々を追い越して行った5・6人のグループが記念撮影。我々は  小屋に入ってエネルギーを補給する。今日の行動食もビタミンサラダとイー  トシステム。短い休憩の後、アーモンドキャラメルを二人のポケットに幾つ  か突っ込んで、いよいよ山頂へと向かった。
地蔵堂前の様子
地蔵堂前の様子
氷ノ山越を目指す
氷ノ山越を目指す
 ブナ林はガスの中にあったが、何度歩いても、どんな天気の時でも、ここは  気持ちのよい森だ。ブナは葉のほとんどを地上に落として、長い冬への支度  を始めていた。今年のブナは実を付けなかったようで、落ち葉の中にブナの  実を見付けることは出来なかった。    ブナ林からの急勾配は、木の根を階段にしばらく続く。すでに登山を終えた  人たちと何度かすれ違っては「こんにちは」を繰り返す。すれ違う登山者は  かなりの割合でトレッキングポールを使っていた。トレッキングポールはこ  こ1・2年の間に急速に広まったようで、山歩きの新しい道具として市民権  を得たようだ。今回の私も、LEKIのTグリップのポールを使った初めて  の本格的山歩きであるが、極めて快調に歩くことが出来て頼もしい。  
氷ノ山越
氷ノ山越
稜線上のブナ林
稜線上のブナ林
 鳥取県側からの仙谷コース分岐を過ぎると、すぐにコシキ岩に到達。我々の  前を行くパーティが岩の下を巻いて行くのを確認してから、こたじま/GENを  インスタント岩登りに導く。今は、この岩を登る物好きもいないらしいが、  かつてのこたじま/YUUと同じく、男こたじまには一度は経験させておきたい  と思った。少し登って、左へ向かう踏み跡には従わずに、そのまま直登する  のが正しいルーティングである。すぐにちょっとオーバーハング気味の乗り  越えがあるが、まあ大したことはない。ポールを持ちながらでも乗り越えら  れる程度。岩を登るにつれ、下を見下ろすと金玉が縮む。    高い所に登るのは大の得意であるこたじま/GENは、何躊躇することなくあっ  という間に岩を登りきった。岩の上はガスが巻き上がって、冷たい風が吹い  ていた。寒さに肩をすくめながら本道へ向かったが、使われなくなった道は  ちょっとした薮であった。本道との合流点では、下山時に入り込まないよう  ロープが張ってあった。
コシキ岩へ向かう
コシキ岩へ向かう
岩を登り切って
岩を登り切って
 コシキ岩を越えれば山頂はすぐそこ。整備したつもりの広い道は、雨に洗わ  れてかなり荒れていた。大きな金を投じて、わざわざ歩きにくい道を作って  くれなくてもよいのに。誰もがそう思いながらこの道を辿っているに違いな  い。最後の階段を駆け上がると賑やかな山頂。4年ぶりの氷ノ山は、すっか  り雲の中であった。    尼工ヒュッテ前で昼食の一団。寒かろうに、避難小屋に入ればよいものをと、  小屋のドアを開けて事情が分かった。まあ居るは居るわ、大賑わいの小屋の  中。青少年グループのうるさい団体が耳障りだ。こんな中での食事はまっぴ  ら。こたじま/GENも外で食べようと逃げ出す始末。小屋の鉄骨の下でランチ  タイムとした。我々の後に続いて登頂した鳥取訛りの3人グループも、我々  のすぐ横に場所を確保した。
山頂直下のヌタ道
山頂直下のヌタ道
氷ノ山山頂
氷ノ山山頂
 お湯を沸かすが、ガスが残り少なかったのと強風に煽られるのとで、なかな  か沸騰しない。フリースを重ね着し、こたじま/GENとガスストーブの前で手  をかざして暖を取る。サックに結んだ気温計は摂氏8度あたりを示していた。  完全に沸騰しないまま、いいかげんなところで諦めてカップ焼きソバをこし  らえる。今日ばかりは、熱いスープのラーメンが恋しかった。  作ったばかりのカップ焼きソバがすぐに冷たくなるほどで、私のカッパを重  ね着させたこたじま/GENは小屋の周りをランニング。それでも、目の前の草  原に陣取った新しいグループはビールで乾杯している。見ているだけで震え  てくる。雲の流れが早く、時折切れ目からハチ高原がぼんやりと姿を現して  はまたすぐに消えた。    長居は無用。13時を合図に東尾根へと向かった。この時、もう後5分出発  を遅らせていたら、パティオの山仲間かねちゃんと、思いがけない山頂での  再会を果たせていたはずだった。ニフティサーブにアクセスしたこの日の夜、  かねちゃんの書込みでこの超ニアミスを知ったのだった。残念。
寒風のランチタイム
寒風のランチタイム
古生沼にて
古生沼にて
 さてタイミング悪く、小屋の中のうるさい一団も13時を合図に同じ道を下  り始めたからタチが悪い。すぐに古生沼に逃れて、連中をやり過ごすことに  した。古生沼は、冬の到来をじっと待っているような、静かな佇まいであっ  た。本道に戻れば、登ってくるパーティが後を絶たない。振り返ると、山頂  避難小屋がガスの切れ間に顔を見せた。今度来るときは、きっと晴れてろよ。    チシマザサに囲まれた滑りやすい道を下る。ポールが役に立つ。少しずつ左  膝の筋が痛み出したが、歩行には影響がなさそうであった。マウンテンバイ  クを担いだ一団とすれ違った。氷ノ山でMTBと出会ったのは始めてであっ  たが、今では登山路の自転車を見ても驚くこともなくなった。担ぎ上げるの  は大変だろうけど、下りの楽しみが待っている。殿下コースでも下るのかな。  挨拶を交わして山頂に向かうチャリダーを見送った。
山頂避難小屋を振り返る
山頂避難小屋を振り返る
MTB軍団とすれ違う
MTB軍団とすれ違う
 神大ヒュッテ前では先の青少年御一行が休憩中。彼らはここから大段ヶ平に  下りたらしく、その後は静かな山歩きを存分に楽しむことが出来たのだった。  ヒュッテから東尾根への道を下ってほどなく、豊かな水場が登山路を横断し  ている。ここで一服。谷の水をコッヘルに受けて、そのまま沸かしてコーヒー  を入れた。美味い。    ここからの下り道は、前後で時々人の声が遠く聞こえるのみで、我々二人だ  けの静かな歩きを楽しめた。東尾根の稜線まで来ると、色づいた木の間から  麓のスキー場が見え隠れし、新しい設備を建設する重機の唸りが聞こえた。
神大ヒュッテ前
神大ヒュッテ前
色鮮やかな蔦
色鮮やかな蔦
 天然記念物指定のツツジの群落地付近は、特に色鮮やかな紅葉が見られた。  落ち葉を蹴散らしながら気持ちよく歩く。ブナの下では、ときどき止まって  は実を探してみるが、やはり見つけることが出来なかった。今年の秋は、但  馬各地でツキノワグマの民家近くでの目撃数が多い。深山では棲みにくくなっ  て来たのだろうか。    急坂を下り、スギ植林が現れると東尾根避難小屋。昔のままの青いトタン張  りが懐かしい。ここのベンチで一息入れてから、左の階段道に向かう。
東尾根稜線を歩く
東尾根稜線を歩く
昔ながらの東尾根避難小屋
昔ながらの東尾根避難小屋
 目の前の氷ノ山の東斜面は、曇り空の鈍い光の中にくすんでおり、山頂付近  は相変わらずガスが立ち込めていた。植林の階段道は退屈で、こたじま/GEN  が時折尻餅をついて黄色い声を出すぐらいのことであった。秋の花の季節も  過ぎたようで、時折キノコを見つけるのみの寂しい道を黙々と下った。
氷ノ山東斜面を望む
氷ノ山東斜面を望む
植林の中の階段道
植林の中の階段道
 植林を抜け、ススキの穂が揺れる空の向こうに、先日二人で歩いた鉢伏山が  顔を見せた。  「あそこ、この間歩いたろ。ここから見ると結構高い山だなあ」  「うん、ほんとほんと」    大幹線林道に出て山道と別れる。ここからはアスファルトの林道をひたすら  下る。さすがにこたじま/GENも疲れたと見えて、足の裏が痛いと訴えた。  見ればくたびれたズックを履いているではないか。この靴で今回のコースは  可哀相なことをしたな。このところ毎回のように私と一緒に山を歩いてくれ  るこたじま/GENは、すっかり私のよきパートナーになってくれた。褒美に、  ちゃんとした靴とザックでも買ってやるか。    かつて同じ経験をしたこたじま/YUUが今でもそうであるように、今回の登山  がこたじま/GENの自慢話の一つになってくれたら、父は嬉しいと思う。  さて、今度はどこに登るかなあ。  もうしばらく、父の遊び相手になってくれ。
鉢伏山を望む
鉢伏山を望む
駐車地点へ戻る
駐車地点へ戻る
 【 登山日 】98年11月1日(日)  【 目的地 】氷ノ山(1510m)  【 山 域 】因但国境  【 コース 】あずき転がし〜東尾根  【 天 候 】曇り  【メンバー】こたじま/GEN, たじまもり  【 マップ 】エアリアマップ59「氷ノ山」  【 タイム 】自宅8:30 → 布滝キャンプ場P9:35-40 → 布滝展望所9:55 →        地蔵堂10:30 → 氷ノ山越11:25-30 → 山頂12:30-13:00 →        神大ヒュッテ13:30 → 水場13:40-50 → 東尾根避難小屋14:40-45        → 東尾根登山口15:05 → 布滝キャンプ場P15:40                         ○▲▲たじまもり▲▲☆