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熊の庭にお邪魔する、氷ノ山



ブナ林

シュンちゃんと呼ぶのはおこがましいが、まあ、オフではお友達のシュンちゃ
んだからその通りに記録する。我が家の山行きは気分と天気次第で決まる。
明日は登ろうということになり、今日の明日だから無理だろうと思いつつも、
夜の早い時間にシュンちゃんにお誘いメールを送った。ほどなく電話があって、
職場の同僚Yさんと一緒に連れて行ってください、ということになった。

翌朝、シュンちゃん宅で待ち合わせ。Yさんはこの4月から当地に赴任された
ばかり。アウトドアも好まれるということで、今回がYさんの但馬野遊びデビ
ューの日となった。私のボロ車に乗り合わせ、当直明けに日役が重なり、朝飯
抜きだとおっしゃるYさんのためにコンビニ調達を済ませ、蘇武トンネルを抜
けて鉢伏高原へ。

高曇りの天気は暑すぎず寒すぎずで、歩行にはもってこいだ。アプローチ中に
感じたハチ高原の異様さは、車を出て歩き始めるとさらに確信に至った。人が
いないのである。この時期のハチ高原は、小中学生の集団訓練、学生ブラスバ
ンドの合宿、パラグライダー教室などで賑やかなはず。それが、人の姿といえ
ば我々含めて中高年のハイカーや山菜採りがパラパラ。通りすがりの宿泊施設
でも閑古鳥が鳴いていた。そういえば、聞こえてくるのは今シーズン初認のカッ
コーの声ばかり。ホトトギスの声も同時確認した。

今日のコースは3年ぶりに歩く。2006年10月に発生した大規模地すべり
の復旧工事はなお続いており、尾根の下に新たなコンクリートの壁が見えた。
小代越への直登ルートは未だに通行止めとなっていたが、高丸の斜面には中高
年山菜採りがへばりついており、分別と責任ある我々4人パーティは自己リス
クにて直ルートを進む。新しい道が崩落地に沿ってまっすぐ切ってあるが、現
在はあくまで工事道だ。基本的に通行すべきではない。現場の様子から、工事
はこの先も当分続く模様。通行解除になるまで、氷ノ山向きにはゲレンデから
高丸経由で向かってほしい。

小代越で一服したあと尾根道を軽快に歩く。小代の谷から一瞬アカショウビン
の声が聞こえたように思ったが、それっきりだった。大平頭(おおなるがしら)
への取り付きは木製の階段に整備されていた。子どもたちの集団訓練のコース
になって手が入った。ずいぶん歩きやすくなったが、鉢伏山や氷ノ山の山頂直
下の木階段のように、雨水の浸食ですぐ役立たずになってしまうかも知れない。
階段が終わるといつもの急登。ここは斜面に張り出したブナの根が、いつまで
も崩れることのない自然の階段を作っていてくれる。

後ろから別のパーティが近づいてきていたが、目的地は別だったようで、ホー
ド杉への分岐を辿ってからは、そのうちの一人と思われる男性が途中で追い越
し、ホードー杉から引き返して行った。ホード杉手前は気持ちのよい広場となっ
ている。集団訓練の子どもたちはここで弁当を広げるのだろう。ゴミひとつ落
ちていないのは、訓練の成果なのだろうと思った。

3年ぶりのホードー杉は痛々しさを増していた。木の半分は枝を落とし、立ち
枯れているように見えた。このまま、この大杉も朽ちて行くのだろうか。たく
さんの人がこの杉を訪れることになって、衰弱を早めたのかも知れない。

沢に降り、予定通りの時刻に昼食とした。水量は例年よりかなり少ない。道中
見つけてはベストのポケットに突っ込んできたスズノコを茹で、マヨネーズを
絞って皆さんに振る舞う。いやはや、これは絶品である。持ち帰って家で食べ
るスズノコとは訳が違う。年に一度だけここまで登ってくるのは、これを味わ
うためと言ってよい。シュンちゃんとYさんも、きっとこの美味さの虜になっ
たに違いない。

食事を終えるとスズノコ採りに突入。ホードー杉へのアプローチは、かつては
この沢沿いの踏み跡であった。氷ノ山登山ルートから逸れたマニアックな道で、
訪れる人も少なかった。新道が作られ、沢道もすっかり消えようとしている。
チシマザサの藪に漕ぎ入るが、大量収穫とは行かない。すでに人の入った跡も
あったが、食いちぎりの跡や、盛れた巨大糞はツキノワグマの仕業だ。沢沿い
には、真新しい熊の足跡も残されていた。ツキノワグマが少し前までここで活
動していたと見られ、一週間前に別の山域でツキノワグマと遭遇もしている私
には、少なからずの戦慄が走るのであった。

夢中で藪漕ぎ中の妻に切上げを命じ、別の場所から現れたYさんと集合する。
ところでシュンちゃんは?ということになり、耳を澄ますがガサともいわない。
妻に、持たせているホイッスルを吹くように言い、私は沢沿いに捜索に向かっ
た。ほどなく藪からシュンちゃんがひょっこり飛び出して、無事保護となった。
やはり方向感覚を失ったようで、妻の吹くホイッスルに導かれたとのプチ遭難
体験談であった。ここで思い出されるのが、かつて一緒に登った萬屋氏の名言、
「スズノコ採りは、道を失う前に、理性を失う」

揃ったところで同じ道を帰途につく。ホードー杉の樹間からは氷ノ山のピーク
が望めた。ブナの木を改めて眺めてみると、どれも2〜3mあたりから枝が広
がり、その高さで枝が捻じ曲がっていたり、瘤が出たりしていた。冬はその高
さまで雪に埋もれているということだ。一本のブナにはツキノワグマの鋭い爪
痕があり、熊棚と思われる枯れ枝の重なりが幹の又に残っていた。

林床のユキザサチゴユリが目をひいた。戻り道のこの景色がいつも好きであ
る。鉢伏山へと連なる緩やかな稜線と草原が描く雄大な景色。言葉少ないYさ
んと私が先行し、妻とシュンちゃんは後ろで会話が弾んでいる。小代越で休憩。
若いカップルが高丸から下りてきて尾根を歩いて行った。さて、通行止めの看
板の横に転がっていた迂回ルートの説明をカメラに残し、やはり自己責任の下
で我々は通行止めを再び突破した。高丸のピークを踏んで帰るのも良かったか
なと後で思った。

駐車場に戻ると、辺りは相変わらず閑古鳥と本物のカッコウが鳴き続けていた。
新型インフルエンザによる行事中止が解除されれば、また活気が戻ってくるだ
ろう。子どもたちの歓声のしないハチ高原はあまりに寂しいものだった。

寄り道をして別宮(べっく)の大カツラを案内した。めいめいが湧き水をお土
産に汲む。道を挟んだ棚田から氷ノ山を望み、車中の人となる。
夜はシュンちゃん宅でご馳走になり、Yさんともどもすっかり酔っ払ってしま
う私なのであった。単身赴任のYさんとは、機会があるごとに但馬の野遊びを
ご一緒できればと思っている。野遊びをしないで、但馬を楽しむことは出来な
いからである。

※撮影:GX100

 【 登山日 】09年5月23日(土)
 【 目的地 】氷ノ山大平頭・ホードー杉
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】鉢伏高原中央駐車場よりピストン
 【 天 候 】曇り時々晴れ
 【メンバー】シュンちゃん、Yさん、たじまもり夫婦
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】鉢伏高原駐車場10:20…小代越10:50…
       ホードー杉12:05-13:50…小代越15:00…P15:45