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スズノコ登山2006、氷ノ山



ブナ林

今年もスズノコ(チシマザサのタケノコ)のシーズンを迎えた。昨年は6月5
日に雨の中を歩いたが、今回は快晴に恵まれた。予定より15分ほど遅れて歩
き出す。ヤマドリゼンマイ群生地越しに、鉢伏山を望む。ヤマナラシがサラサ
ラと葉ずれの音を立て、見上げる高丸ピークでは自然学校の子供たちがヤッホー
を叫んでいる。いつもながらの、この季節のハチ高原の風景だ。

登山路に入るとすぐにフタリシズカアマドコロが目についた。氷ノ山の谷に
は残雪があった。久しぶりの階段道に息が上がる。小代越の子供たちをやり過
ごして左に向かえば、ここからは静かな山歩きが待っている、はずだった。

稜線を吹き抜ける風が心地よく、タニウツギや地面のヒメハギなどに目をやる。
たくさんのチゴユリもそろそろ花の季節を終えようとしている。但馬地方では
山地でしか観察できないドノロキハムシも繁殖シーズン。カッコウ、ホトトギ
スの声が聞える。

最近はホードー杉にも集団訓練のコースが設定されたようで、ブン回しの登山
路をさらに拡張整備する計画もあるとか。そんな話を妻たじまとしながら歩け
ば、前方からガヤガヤという声が聞えてきた。まさか。あまりにタイミングが
良すぎたが、まさかは現実のものとなった。我々がこれから向かう大平頭(お
おなるがしら)の急斜面から集団訓練の一団がアリのように列をなして下りて
くるではないか。

山ではコンニチハを言わないといけないと、妙な社会観を植え付けられた中学
生軍団をやり過ごすのにかなり消耗した。最後尾の女教師と短い会話を交わす。
340人の団体だという。「ボードースギまで行ってきました」とおっしゃる。
なるほど、これだけの大集団がホードー杉を取り囲むのは「暴動過ぎ」だよな、
と、一団の後姿を見送りながらオヤジギャグで苦笑った。340人の中学生た
ちがこのコースを歩かされ、ワイワイガヤガヤとホードー杉を見上げて、何か
得るものがあったろうか。森の生き物と向き合うには、人間側に節度とマナー
が必要だと私は思う。

大平頭の急斜面をゆっくり登る。ユキザサチゴユリ、ツクバネソウが目につ
く。道脇の笹薮を覗きながらスズノコの生え具合をチェックするが、まったく
と言ってよいほどタケノコが無い。少し時期が早かった様子だ。登りきった分
岐に荷物を置いて、しばらく付近を探索してみる。僅かのスズノコを採取して
せめてお昼のご馳走に。痒みに気付いて左腕を見れば、どこで触ったのか、ウ
ルシか何かにかぶれていた。犬のように鳴く、特徴的なセグロカッコウの声を
近くで聞いた。

ホードー杉への枝道を進むと右に新しい道があった。昨年は気付かなかったが、
ガスの中だったの見落としたのかも知れない。従来は直進して沢伝いに下降す
るアプローチなのだが、そちら方面はすでに笹が両側から覆って不明瞭になり
つつあった。集団訓練の団体用に新しく整備された道に向かってみた。途中で
三叉路に出会うが、ここは左に進路をとる。右に行けばどこに出るのだろうか?

新しい道はブナに囲まれて気持ちがよい。さきほどすれ違った340人の団体
が不安定な沢筋を通ったのかと案じていたが、なるほど、この道を使ったのな
ら納得もゆく。緩やかに下ったところでホードー杉の広場に出た。すっかり周
りを切り払われ、剥き出しに晒されたホードー杉の姿に、屋久島の縄文杉と同
じ運命を感じた。

ホードー杉から沢へ下りる従来のアプローチにはロープが張ってあった。子供
たちが迷いこまないようにという配慮だろうが、こちらとしてはいい迷惑だ。
沢沿いのいつもの場所に腰をおろして昼飯とする。沢水で沸かしたお湯に、途
中で採ってきた10本ほどのスズノコの皮をむいて放り込む。小さな缶ビール
をプシュっとあけ、茹でたてのスズノコをマヨネーズで頂く。たとえスズノコ
のお土産が無くたって、ここでこうしてブナの水で茹でたスズノコを味わう瞬
間さえあれば、来年もまた同じ道を辿ろうという気持ちになるのだ。

戻りは、従来の沢コースを遡る。例によって妻たじまは笹薮突撃隊と化して、
数少ないスズノコを求めてガサゴソやっている。私は外からサポート。太陽の
光がブナ・ミズナラの森をよりいっそう明るく彩る。気温が上がって鳥も声を
潜めたようだ。体一杯に緑のシャワーを浴びて、大平頭の森をあとにした。
森を抜けたところでカッコウが目の前を横切り、草原では1頭のアサギマダラ
がフワフワと飛んで行った。

目の前のダイナミックな鉢伏高原の山風景を堪能しながらゆっくり下山。同じ
コースを毎年歩くが、今年は今までになく疲労感があった。普段から体をケア
することを怠っているのを妻たじまに窘められつつ、老いてゆく我が身のこと
を思うのであった。

帰る道中、別宮(べっく)の大カツラに寄り道する。根元からほとばしり出る
冷たい山水で顔を洗ってリフレッシュ。カツラの前に広がる棚田から氷ノ山を
見上げて帰途についた。

※撮影:D2X+SIGMA17-70,SP90,SIGMA10-20

 【 登山日 】06年6月3日(土)
 【 目的地 】氷ノ山大平頭・ホードー杉
 【 山 域 】但馬
 【 コース 】鉢伏高原中央駐車場よりピストン
 【 天 候 】晴れ
 【メンバー】妻たじま、たじまもり
 【 マップ 】持たず(エアリアマップ「氷ノ山」参照)
 【 タイム 】鉢伏高原駐車場10:45…小代越11:20…
       ホードー杉12:30-13:15…小代越15:20…P16:00